027
昼間、あれほど騒がしかった街は今や、静謐の底に沈んでいた。
夜になると共、飛禅連山から吹き降ろす風が雪を連れてやってくると、静寂は一層深くなったようだ。
コウに連れられて指揮所まで戻っていたサクヤはそこで、街の完全制圧を告げられた。
報告を聞き終えた彼女は、その場にいた兵たちへ短い労いの言葉を口にしてから、ふらりと天幕を出ていった。
逮捕、拘束できた者は皆無だった。
蹶起に参加していた開拓部隊と元陸軍兵士たちは、ヤトの命令を忠実に実行したからだった。その彼らは今、冷たい真綿の下で静かに眠っている。
制圧を終えた守備隊には、その遺体を回収する気力が残っていなかったからだ。
哀れな少年たちの巨大な墓標となった街が、次第に白く染まってゆくのを眺めながら、サクヤは思い出したように懐から一通の封書を取り出した。
駒塚にヤトからだといって手渡された、あの手紙だ。
冷気にかじかむ手でどうにか封筒を開くと、数枚の紙が折り畳まれて入っていた。
とんだご迷惑をおかけして、まことに申し訳ない。
一枚目はそんな、肩を竦めるような文言で始まっていた。
そして、その後に続く内容にサクヤは怪訝そうに眉をひそめた。
そこには、今回の蹶起に参加こそしなくとも協力した者や、同じような企てをしている者たちが一覧となって記載されていたからだ。一覧は全部で五枚入っていた手紙の内、四枚目まで続いていた。それは恐らく帝国政府、いや、帝国陸軍にとって喉から手が出るほど欲しい情報の宝庫だっただろう。
しかし、サクヤはそのほとんどを飛ばし読みしてしまった。
もし仮に、サクヤが各地の守備隊が手を焼く脱走兵の問題を知っていたとしたら。そしてもしも、彼女が帝国に対して無条件の忠誠を尽くす軍人だったとしたら、その情報の重要性を認識できたかもしれない。
だが、そうではない彼女にとってその一覧は、七倉ヤトが共犯者たちを告発しているとしか受け取れなかった。どうして味方を裏切るような真似を、と疑問にも思うが説明はない。
果たしていったい、七倉ヤトは自分に何を伝えたかったのだろうかと五枚目まで読み進めたところで、サクヤはこれまで以上の混乱に瞳を見開いた。
そこには、七倉家の財産をサクヤへ遺贈すると記されていたからだった。
迷惑をかけた詫び賃というわけではないが、今後、何かしらの一助になれば。必要なければ織館ヒスイにでも預けておけばいい。彼女なら自分たちよりも有効に活用するだろうから。
それでは。おさらばです。
僕らは逝きます。
これでようやく、貴女の望んだ平和がやってくる。
手紙はそう締めくくられていた。
違う。ちがう、違う。
ヤトの手紙を読み終えたサクヤは、何もかもを否定するように首を振った。
こんなの望んでない。
こんなこと、望んでいなかった。
手紙をくしゃくしゃに握りしめて、薄っすらと積もり始めている雪の上に膝をつく。
噛みつくような痛みと冷たさ。それに、緩んでいた涙腺が決壊する。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
いったい、何が悪かったのか。
国のせい? 議会のせい? 彼のせい?
それともやっぱり、私が戦争を止めてしまったからなの?




