026
小屋から一歩出るなり、ヒスイの目が眩んだ。
すでに陽は傾きかけているものの、夕日を乱反射する白銀のきらめきは薄暗がりにすっかり慣れていた彼女の目を焼くには十分な眩しさだった。
それでも、何度か目を瞬かせているうちにだんだんと明るさに慣れてくる。
雪山の情景がようやく形を成してきた時。
真っ先に彼女の瞳に飛び込んできた色は、赤だった。
「こうするしかありませんでした」
身体を硬直させた彼女へ、穂高がそっと声を掛けた。
「呼びかけるなり、有無も言わさずに発砲してきたので」
悔いるように言った彼に、ヒスイはぎこちなく頷いた。
雪に転がっている死体は全部で三体あった。
どれも、街で一度は見たことのある顔だった。それを穂高の率いてきた兵たちが運び、赤く染まった雪を地面ごと掘り返して血の跡を消してゆく。
運ばれてゆく彼らの死体を見送りながら、ヒスイは祈るように両手を組んだ。
こうなるかもしれない事は分かっていた。きっと、彼らの誰もかもが。
「街はどうなっていますか?」
ともに遺体を見送った後で、ヒスイは穂高に訊いた。
彼は言葉では答えず、ただ黙って彼女の背後を指さした。
ヒスイが穂高に示された場所へ向かうと、そこはちょうど崖になっていて、第1151開拓村の街の全景を見下ろすことができた。
その情景に、ヒスイは息を呑む。
街を包囲し、忙しなく動き回る守備隊の群れ。街の中までは見通せなくとも、そこで何が起こっているのだけは容易に想像がつく。
「状況はどうなっているのでしょうか」
後を追ってきた穂高に、ヒスイは振り返ることなく尋ねた。
「自分も詳しいことは分からないのですが……街の制圧はほぼ完了して、今は残る敵兵の掃討を行っているようです」
「掃討?」
「ええ。先ほど、敵指揮官の死亡が確認されたそうなのですが、幾ら投降を促しても、応じない者がほとんどのようで」
「そう。ですか」
そうでしょうね。
穂高の言葉に、ヒスイは静かに唇を噛み締めた。
その背後で一人の兵が穂高にそっと囁く。穂高は頷くと、ヒスイの背に声を掛けた。
「遺体の収容が終わりました。もう、子供たちを外へ出しても大丈夫でしょう」
「ありがとうございます」
「いえ。山を降りるまでは、自分らがお送りします。その後は、連隊長の御指示に従ってください」
「連隊長……木花少佐のことですね」
聞き返したヒスイに、穂高がああと思い出したように後頭部を掻く。
「すみません。どうにも、将校である自分がこう呼ぶべきではないと分かってはいるのですが……その、染みついたものは中々」
なんとなく照れたようなその声に、ヒスイの胸の中で形容しがたい感情が渦巻いた。
悔しさや怒り。悲しみ、喪失感。とめどなく感情が溢れてくるようで、同時にどこまでも空虚なそれは。
それは、きっと。嫉妬だった。




