024
「畜生……あいつら、なんで、なんでやめないんだよ……畜生……」
やみくもに突っ込んでくる敵の集団に銃弾を撃ち込みながら、帝都守備隊第五中隊の笹村一等兵は罵るように呻いた。
「もう勝負はついただろ……なんでやめないんだよ……?」
鼻水を啜りながら、もうやめてくれと何度も心の中で思う。
それでも、明確な戦意と武器をもって突撃を仕掛けてくる以上、自分と味方を守るためにも射撃をやめるわけにはいかない。
たとえ銃剣もなく、弾も装填されていない小銃だったとして凶器は凶器だ。その上、突っ込んでくる敵の中には手榴弾を隠し持っている者までいた。一度、取り押さえようとした敵兵の一人が、味方を巻き込んで吹き飛んで以来、守備隊は投降の意思を示さない者は全て射殺することを余儀なくされている。
その結果が、もはや戦闘とは呼べないこの有様だった。
「もういいだろ!? もう十分だろ! ……なんで投降しないんだよ!!」
新たな敵の一団が無為無策のままに突撃を仕掛け、瞬く間に鏖殺されてゆくのを見た
笹村は、遂に堪えきれなくなった。足元に小銃を投げ出して、顔面を両手で覆う。
「……俺には、分かるような気がするよ」
と。泣きじゃくる彼の横で、班長の八辻伍長がぼそりと零した。
「分かるって、何がですか」
笹村がくぐもった声で尋ねる。八辻はそれに答えず、逆に問い返した。
「お前、あの戦争で木花連隊長に出会ってなかったら、今頃どうなってたと思う?」
「そんなの……」
想像もつかない。
そう答えようとした笹村の声が途切れる。
否。想像する必要がないのだと、気付いたからだった。
もしも、あの戦争で木花サクヤに出会えていなかったら、きっと自分はここにいないからだ。きっと、今もどこかの戦場で戦って、或いはどこかで何の意味もなく死んでいただろう。
「そうだな。そんなところだろうな」
笹村の言葉に、八辻は頷いた。
「アイツらもそうだったんだよ。平和だとかそんな言葉も知らずにさ。何時か、どっかでくたばるその日まで戦い続けるはずだったんだ。でも戦争は終わっちまった。俺たちが終わらせた。で、国に帰ってきたらあっちこっち焼け野原でな。ガキが武器なんて持つなって取り上げられて、軍からも放り出されて、どこの誰だか知らねえ爺さん婆さんに、昨日までやったこともない畑仕事しろとか言われて……お前だったら、なんだそれって思わないか? 俺たちの戦いはなんだったんだって」
能面のような表情で、淡々と呟きながら、彼は引き金を引き続けている。
その射撃は極めて丁寧で、正確だった。確実に一撃で仕留めて、また次へ。
まるで祈りを捧げるように。まるで許しを乞うように。八辻は自らの使命を果たし続けている。
――ああ。そうか。
笹村は思った。
あいつらは、連隊長と出会えなかった俺たちなのか。
戦う以外に生きる術を知らず。戦う以外にできることもなく。
来る日も来る日も殺し合い。何時か、何処かで自分が殺されるその日まで。
そんな日々に疑問を持つこともなく、当然のように。
それは、あの人に出会う前の俺たちと同じだ。
――そうか。だからか。
涙を拭って、笹村は地面に落としていた小銃を掴んだ。
槓桿を引いて空の薬莢を輩出し、次弾を装填して構える。
「……ごめんな」
照準の先にいる、名前も知らない戦友だった誰かに小さく詫びて、彼は引き金を絞った。
ごめんな。
俺たちのせいで。
俺たちの勝手で、戦争を終わらせちまって。
でも、でもな。仕方がないんだ。
引き金を引きながら、彼は銃口の先にいる者たちへ心の中で語り掛けた。
俺たちさ。連隊長にお願いされちまったんだ。
弱くて、怖がりで、そのくせ強がってばっかりな、ちっちゃくて可愛い女の子にさ。
戦争を終わらせたいって。終わらせて欲しいって。
だから、ごめんな。
俺たちの好きな人のために、勝手にお前らの戦争を終わらせちまって。
大々的な集団自殺に付き合わされることとなった帝都守備隊第五中隊は、陽がすっかり落ちきるまで、その凄惨な作業を続けなければならなかった。
しかし、彼らの中で、その任務を放棄した者は誰一人いなかった。




