018
指揮所を一歩出たところで、コウたちがサクヤを待っていた。
よほど急いで戻ってきたのか。全員、酷く息が上がっていた。けれど、彼らを休ませている時間はない。
「私を七倉大尉のもとまで連れて行って」
サクヤは有無も言わさぬ口調でコウに言った。
「彼はきっと、先ほどまで貴方たちが目指していた街中央の屋敷にいるはず」
「了解」
さっと息を整えたコウが、その命令に敬礼で応じた。その後ろから、瀬尾がひょいと首を伸ばす。
「経路は確認済みです。でも、危険ですよ。連隊長」
サクヤの身を案じるように言った彼へ、サクヤはふわりと微笑んだ。
「ええ。だから、貴方たちにお願いしているの」
「ああ……いや、なるほど……」
サクヤの言葉に、思わず頬を蕩けさせている瀬尾達へ、コウが脅すような声で振り返った。
「いいか、てめえら」
そして、彼らをねめつけながら唸る。
「連隊長に傷一つ付けたらどうなるか……分かってんだろうな?」
「腹掻っ捌きます」
「ドたまぶち抜きます」
「素っ首吊り下げます」
「み、みんな……! そんなことしなくていいから……!」
コウたちに伴われて、サクヤは街中央にある屋敷を目指し、駆けていた。
やはり、叛乱部隊はヤトの命令に呼応して攻勢を強めたらしい。街の東からは、けたたましい銃声が響いてくる。
時折、銃を担いだ叛乱部隊の兵士たちが大慌てでそちらの方へ向かってゆくのを路地裏からひっそりと見送りながら、サクヤたちは遂に屋敷の表門が見える通りまでやってきた。
屋敷まであと一歩というところで、コウが足を止めた。
路地から覗き込むように通りの様子を観察している彼の背後で、瀬尾達が円形防御の態勢をとる。彼らが守るその中心で、サクヤは荒い息を吐いていた。
「大丈夫ですか、連隊長……?」
すっかり息が切れて立っているのもやっとな様子の彼女に、伊関が心配そうな声を掛ける。
「だい――っ――ぅ」
大丈夫と答えようとしたサクヤだが、喉はもう発声器官としての役割を放棄している。ひゅーひゅーと乾いた音ばかりがその口から漏れる。そのくせ、どれだけ空気を吸っても、まるで肺は満足してくれない。
なんて、情けない。
激しい鼓動と悔しさに瞳を潤ませながら、サクヤは自分を罵った。
今ほど自身の体力の無さを呪ったことはない。サクヤを連れて街に入るその前から走りっぱなしだったはずのコウたちは、まだぴんぴんしているというのに。
サクヤがそんな自己嫌悪に囚われていると、通りの様子を確認していたコウが振り返って命じた。
「伊関、連隊長とここで待ってろ」
続けて、彼は屋敷の真向かいに立っている二階建ての民家を指で示した。
「瀬尾と楠城は、俺についてこい。あの家までの安全が確認できたところで、伊関は連隊長と一緒に前進しろ」
「了解しました」
わずかにほっとした声で伊関が応じる。
その命令が自分への気遣いだと気付いたサクヤは、必要ないと口に出そうとして咳き込んだ。その間にコウたちが路地から飛び出してしまう。
あまりの情けなさに、サクヤは顔を伏せた。
そこへ、鋭い銃声が一発。通りに響き渡る。
反射的に顔をあげたサクヤの視界で、楠城上等兵がぱたりと地面に倒れた。




