015
銃声の響き渡る街の中心にある屋敷で、七倉ヤトもまた指揮を執っていた。
「敵は主功を街の東に向けている。手の空いている者は全員、そちらへ急行させろ。敵の指揮を執っているのは邑楽ミツル大尉と思われる。敵にして不足なしだ。大いにやりたまえ」
気の抜けた声で命じ終えると、三人の伝令が勢いよく屋敷を飛び出していった。
機材や設備の差からいって、こちらの無線通信は全て傍受されているだろうから、命令の伝達は全て伝令を使っている。そもそも、屋敷に置いてある長距離用の無線機の他に、持ち運び可能な単距離無線機は帝都から持ち込んだ数台しかない。使ったところで戦闘指揮に役立つほどの数ではなかった。
伝令たちが去るとヤトは屋敷の中庭へ出た。
玉砂利の敷かれた庭から見上げる空は、いつの間にか晴れていた。といっても、山の天気は変わりやすい。飛弾連山の山々から吹き降ろす風からは、微かに雪の匂いがした。
今夜も降るかなと、他人事のように思いながら空を仰いでいたヤトの耳に、しゅぽんという空気が勢いよく抜けるような音が届いた。それとともに、青空へ向かって黒い点が飛び出してゆく。数寸置いて、街のどこで炸裂音が弾けた。
塀の向こう側に立ち昇る白煙を上機嫌に見上げながら、迫撃砲の残弾はあと何発だろうかとヤトは思った。
さてさて。これでこちらの手札はほとんど切りつくしたわけだ。
もう少しやれるかと思ったんだが……。
我ながら、なんと無様な戦ぶり。まあ、仕方ない。相手が相手だ。
開き直ったように笑って、懐から紙巻きを一本取り出す。それを咥えたところで、横からさっと火の点いた燐寸が差し出された。
「大尉殿、少々不味いです」
駒塚だった。
「どこも弾薬が不足し始めています。このままでは、日暮れまで持つかどうか」
「うん」
まぁ、そんなところだろうなとヤトは紫煙を吹き上げた。
「曹長、迫撃砲まで一走りして、余っている全弾打ち尽くして良いと伝えてきてくれ」
「は」
命じた彼に、駒塚が恭しく一礼をして去ってゆく。それと入れ替わるようにヤトの背後で、玉砂利を踏みしめる音が響いた。
「君は……」
振り返ったヤトは、憮然とした顔になった。
「何をしている。佐伯中尉」
「七倉大尉」
佐伯中尉は怨嗟の混じった声で彼に応じた。
「アンタこそ、何をしているのか分かっているのか」
その言葉とともに持ち上げられた彼の右手には、拳銃が握られていた。




