014
戦死三名。行方不明一名。
今さら教えられるまでもないその言葉を聞いて、サクヤは思わず椅子に縋りついた。
現場を見ていなくても、ありありと想像できる。
行方不明。つまり、一人だけ遺体が見つからないのだ。残っているのはきっと、誰かがこの世に存在していたことを示す赤い染みと、細切れの肉片だけ。
奇妙な跳ね方をする心臓をどうにか落ち着けて顔をあげたサクヤを、マレツグが無言で見つめていた。
どうするんだ。そんな、挑むような無言の問いかけ。
サクヤはそれを無視して、無線手に呼びかけた。
「……遺体の収容を行っている時間はありません。全部隊へ、任務を続行してくださいと」
感情の全てを拭い去った声。
「はい」
無線手の兵は万事了解しているというように頷いて、彼女の命令を伝達した。
「……冬で良かったですね」
そして彼は、そんな残酷な慰めの言葉をサクヤへ掛けた。
「大丈夫。少し遅れるけれど、必ず迎えに行くから」
誓うように答えてから、サクヤは思考を切り替えた。
今の砲撃は、七倉ヤトが手を打ってきたと考えるべきだ。
数多の戦歴で培われてきたサクヤの直感はそう告げている。
では。次にどんな手を打ってくるか。それにどう対処するべきか。
素早く考えを纏めたサクヤが命じるよりも前に、無線からミツルの怒鳴り声が響いた。
『全部隊、反撃に移れ! 多少強引でも構わん、押し進め! 敵に肉薄するんだ!』
どうやら、彼もサクヤと同じ結論に至ったらしい。
『あいつら、何が何でも徹底的に全面戦争するつもりらしいぞ』
ミツルはそう吐き捨てて、通信を切った。
そう。
サクヤは無言で、彼の言葉に頷いた。
そうするしかない。
先ほどまで、戦闘は膠着しつつあった。そこへ、これまで大通りにおける守備隊の行動を制限する目的で使っていた迫撃砲を攻撃に転用してきた。
これに対して取りえる対処法は二通り。迫撃砲陣地を制圧するか。若しくは、味方への誤爆を免れない距離まで敵に接近するか。
迫撃砲陣地の位置が特定できていない以上、守備隊が取ることのできる手段は後者のみ。
何が何でも徹底的に。
戦闘の膠着も、戦況の安定も許さない。
そんな七倉ヤトの狂気が伝わってくるようなその采配。
何よりも。そこまでして、彼が何を目的にしているのかが全く分からない事が、サクヤを怯えさせていた。
戦闘は次第に激しさを増していった。指揮所にはその後も続々と、被害の報告が相次いだ。
雪山の麓にぽつりと造られた街は今や、煮えたぎる地獄の釜の底もかくやの有様だった。




