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桜花舞う!!  作者: 高嶺の悪魔
第四章 第1151開拓村決起
165/205

012

 守備隊が一斉砲撃を行なった轟音と、着弾の衝撃で街が揺れたその時。

 七倉ヤトは万感の想いと満身の力を込めて、量の拳を握りしめた。

 大地を穿つような衝撃。続く、嵐のような銃声。吶喊と悲鳴の混声合唱。

 平穏の対極に響く、懐かしくも愛おしい戦場音楽に酔いしれるように、深く息を吸い込む。

 と、そこへ。

『な、七倉大尉!?』

 回線を開いたままにしておいた無線から、焦燥に駆られた声が彼を呼んだ。

「やあ、佐伯中尉。住民の避難は完了したのか?」

 応じたヤトは、まるで空模様を眺めているような口調だった。

『は、それは……しかし、これは何という有様なのですか』

「では、ただちに持ち場へつけ。敵が来るぞ」

『敵……?』

 状況が全く理解できていない様子の相手に、ヤトは子供をあやすように応じた。

「そうだとも、佐伯中尉。君も戦地帰りならば分かるだろう。この街はいまや、戦場になったのだ。懐かしい、僕らの故郷に」

『大尉、貴方は何を』

 無線を通して聞こえる佐伯の声が険しくなった。そこへ、街の中にけたたましい銃声が響き渡る。ヤトはそれ以上、彼に取り合わなかった。

「どうやら来たようだな。さ、何をしている? 状況を把握して、部下を掌握し、応戦に備えろ」

 告げて、ヤトは無線の電源を落とした。


 一方的に通信の切れた通話機を片手に、佐伯は茫然としていた。

「戦場……? 戦場だって?」

 信じられないと、何度もその言葉を繰り返す。

 それも当然だった。彼は今回の武装蜂起を、いや、そもそも彼はこれを武装蜂起であるなどと考えていなかった。

 議会に街の自治権を認めさせるための示威行為。

 織館ヒスイが議会と行った交渉が決裂して街へ戻ってきたその日、彼が聞かされたのはそれだけだ。住民を街の外へ避難させるのも、万一に備えるだけだと。

 けれど、現実は確固として眼前に存在する。

 彼の見知っていた街はいま、砲弾に叩かれて煙を上げていた。

 そのどこからか響いてきた銃声が、その耳朶を打った時。

「この街が、戦場だって?」

 全てを察した佐伯は、きつく歯を食いしばった。


「中尉殿」

 混乱する彼の背に、ともに山から下りて来たばかりの兵たちが声を掛けた。

「中尉殿、御指示を」

「七倉少佐殿はなんと?」

 どこか、茶化すように尋ねた部下へ。

「少佐だと?」

 彼は大尉だ。そう言い返そうとした佐伯は、振り向いた先ではっと口を噤んだ。

 兵たちは口々に笑みを湛えながら、何かを待ちわびているような、期待に満ちた瞳で彼を見ている。それに、佐伯はまるで度を越した酔漢ばかりが集まった乱痴気騒ぎの中に、たった一人素面のまま紛れ込んでしまったかのような疎外感に襲われる。


「中尉殿?」

 黙り込んだ彼を、兵の一人が怪訝そうに呼んだ。

「あ、ああ。いや、すまん……」

 恐らく、この事態を知らなかったのは自分一人なのだろう。直感的にそう悟った佐伯は、とっさに嘘を吐いた。

「あー、君たちは、街に戻って他の者たちと合流せよとのご命令だ」

「それで、中尉殿はどちらに?」

 嘘の命令を伝えて、彼らから離れようとした佐伯に探るような声が掛かる。

「私は直接、七倉大尉に報告せねばならない事がある」

「そうですか」

 誤魔化す言葉を、兵たちは特に怪しまなかったようだ。

「それでは、御武運を」

 背中に投げかけられた、そんな別れの言葉をどう受け取ったら良いのか。佐伯には分からなかった。


 部下たちとは別の道を使って街の中心へ急ぎながら、佐伯は混乱する思考をどうにか落ち着けて考える。

 何故。どうして、このようなことになったのか。

 彼は平和になったこの国が好きだった。

 殺し合いの日々を過ごしていた自分が、子供たちと笑い合えるこの街が好きだった。

 田畑を耕し、作物を育てるのは楽しかった。壊すばかりだった自分が、街を再建する手伝いができるのはこの上ない喜びだった。

 この日々を与えてくれた人物をどうしようもなく恨みながら、それでも。

 彼は、平和が好きだった。

 けれど、それも終わってしまった。

 どうやら七倉ヤトは、いや、自分以外の者たちは皆、この事態を予測していたようだ。

 つまり、自分一人が七倉ヤトの企みを何も知らぬまま利用されていたということか。

 佐伯はこの現実をそのように解釈した。

 そんなことは。到底、許されることではない。

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