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「いい加減、静かにしろ! 連隊長からの命令を聞きたくないのか!」
浮かれて騒ぐ兵たちをミツルが怒鳴りつけると、喧噪がぴたりと止んだ。
「よし」
コトネが見ていたなら、頭を抱え出しそうなその反応にミツルは頷いた。
「ではまず、我々第一大隊は――」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
彼が作戦説明を始めた直後だった。
しんと黙り込んだ中から、一人の兵が大声をあげた。
「自分は第二大隊でした!」
彼が叫んだのは、第587連隊時での所属部隊だ。
その途端、あちこちから同じようにミツルがかつて率いていた第一大隊の名を使って作戦説明を始めたことに対する抗議の声があがる。
「俺も! 第二大隊第四中隊でした!」
「第六中隊でありました!」
「だ、第二火器中隊でした……」
「ええい、うるさい!」
口々に第587連隊時代の、自らの所属を叫ぶ兵たちをミツルが一喝した。
そして、右の親指で自らを指し示しながら言い放つ。
「俺が指揮を執るから、第一大隊なのだ」
その発言に、元々第一大隊だった者たちが「そうだ、そうだ」と声を揃える。反対に、そうでない者たちは一斉に不満をぶちまけた。
「横暴だ!」
「職権乱用だ!」
「なにが歩く軍神だよ」
「この乗り物嫌い!」
「降格したくせに……」
もしもこの光景を、第587連隊を知らない将校が見たなら卒倒したかもしれない。
規律を重んじる軍隊にあって、上官が命令を伝達している最中に口を挟もうものならば、鉄拳が飛んでも文句が言えないからだ。
しかし、その鉄拳を飛ばすべき立場の須磨曹長は、ミツルの隣で何食わぬ表情を浮かべている。
「なんだ、須磨。貴様も何か文句があるのか」
須磨の顔を見たミツルが、罵るような声で訊いた。
「いえ、別にそういうわけでは」
彼は恭しい態度でそれに応じた。
「ならなんだ。その顔は」
「別に。ただ、自分は連隊本部付きでした」
「もういい。分かった」
しれっと答えた須磨に、ミツルは降参するように諸手を挙げた。
好き勝手、雑談している兵たちの注目を集めるように、その手を打ち合わせる。
「どこの所属だったとしても、連隊長の指揮下に居たのはみんな同じだ」
纏めるように言った彼へ、兵たちがまぁそうですねと頷きを返す。
「だから、帰ったら全員で営庭五百周だ」
「嘘だろ!?」
「え……第一大隊もですか……?」
「須磨、お前もだぞ。特別に機関銃を担がせてやる」
「おら、黙って大尉殿のお話を聞かんか貴様ら!! 帰った後の楽しみが出来て良かったじゃねぇか!!」




