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桜花舞う!!  作者: 高嶺の悪魔
第四章 第1151開拓村決起
162/205

009

「大尉殿。どうやら連中、帝都の造兵廠を襲って武器を盗んだそうです。その中に、軽迫撃砲が七門あったと」

「なぁるほど。連発式もそこから頂戴したってわけか」

 サクヤとの通信を終えて顔をあげた楠城の報告に、コウはふーんと唇を尖らせた。

「どうしますか、大尉殿?」

 埃塗れになった戦闘服を叩きながら、瀬尾が尋ねた。

 コウは一瞬だけ、考え込むように目を閉じてから、すぐに悩むのをやめた。

「俺たちの仕事はつまり、この街をしっちゃかめっちゃかにかき回すことだろ?」

「ええ。それはまあ」

 彼の問いかけに、瀬尾が頷く。コウはにやりとした。

「そんじゃあ、そうしようや。砲弾がどっちから飛んできたか、分かる奴はいるか?」

「たぶん、街の中心からだったと思います」

 答えたのは伊関だった。

「街のど真ん中には、昔、この街のお偉いさんが使っていたというどでかい屋敷があります」

 頭の中に街の見取り図を思い浮かべた瀬尾が、彼の報告を補足する。

「迫撃砲陣地はそこだな」

 決めつけるようにコウが頷いた。そして、散歩に出かけるような口ぶりで言う。

「じゃ、潰しに行こうぜ」

「しかし、この人数で突破は難しいかと……」

 身を隠している路地から、そっと大通りを覗き込んだ楠城が自信なさそうな表情を作る。

 他の者たちも同じような顔をコウへ向けていた。そんな彼らに、コウは不敵な笑みを浮かべて言った。

「おいおい。俺たちの指揮を執っていらっしゃるのが誰なのか、もうお忘れか?」

 その言葉に応えるように。街の東側から、砲撃と銃声の重なる爆音が響きだす。

 ほらなと、コウは肩を竦めた。

「本隊のお出ましだ。敵がそっちに夢中になっている間に、俺たちは北側から回り込むぞ」


 指揮所へ呼び出されていたミツルが中隊の下へ戻ってくると、そこにはすでに装具を整えた中隊員たちが整列して待っていた。

「帝都守備隊第二大隊、第五中隊以下98名。総員出撃準備整っております」

 戻ってきたミツルへ、中隊本部付きの須磨曹長が踵を鳴らして報告する。

「ご苦労」

 それに短く応じて、ミツルは部下たちの顔を眺めた。

 誰もが、何かを待ち望んでいるように彼を見つめ返している。そんな彼らに、やれやれと首を振ってから、ミツルは口を開いた。

「よろしい。それでは、これより本作戦の指揮を執っておられる木花少佐からの……いや」

 そこでふと言葉を切った彼は突然、背筋を正し、踵を鳴らして気をつけの姿勢を取って、声を張り上げた。

「木花連隊長からのご命令を伝える!」

 果たして、その一言にどれだけの効果があっただろうか。

 中隊から一斉に歓声が上がった。隣り合う戦友と笑顔で肩を叩き合う者や、感極まったように身を震わせている者までいる。


 そりゃ、そうだろうな。

 狂喜に沸く部下たちを前に、ミツルは思った。

 こいつらはずっと、この瞬間を待っていたのだから。自分たちがもう一度、第587連隊に戻れる、この時を。

 何かに耐えきれなくなって、ミツルは軍帽を目深に被った。

 ――ごめんなさい。

 先ほど、彼に命令を告げたサクヤが、絞り出すように付け加えた謝罪の言葉を思い出す。

 何故、サクヤが謝ったのか。ミツルは知っている。

 巻き込んでごめんなさい。

 みんなをまた、危険な目に遭わせることになってしまって、ごめんなさいと。

 サクヤはそう謝ったのだ。

 そんな彼女の想いを承知の上で。ミツルは今、兵士たちを戦場へ駆り立てるために、彼らがサクヤに対して抱く好意を利用したのだ。

 まったく。我ながら最悪の統率法だな。

 ミツルは内心で自嘲した。

 恐怖政治のほうがまだ救いようがある。

 少なくとも、命じられた者は命じた者を恨むことができるから。

 けれど、彼らにはそれができない。

 きっと最期の瞬間まで。彼らは誰も恨むことなく、死んでゆく。 


 それでも。ミツルは、サクヤにも分かってほしかった。

 もう一度、サクヤとともに戦えるというのが彼らにとって、どれほどの喜びなのかを。

 否。そもそも、今この瞬間をサクヤとともに在れるというそれだけで、彼らは満足なのだ。

 理由など関係ない。ただ、その為の手段として戦いが必要だったというだけで。

 まったく、それはどこまでも純粋で度し難い、なんとも不謹慎で自己愛に塗れた、恋心とさえも呼べないような淡い期待と願望。

 しかし、それがあったからこそ、第587連隊はあの大戦を終わらせたのだから。

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