008
「野砲!?」
指揮所を揺らした重低音に、マレツグが普段の冷静さをかなぐり捨てて叫んだ。
「奴ら、そんなものまで……」
「いえ。射撃音が聞こえませんでした。今のは、迫撃砲による砲撃でしょう」
焦りも露わに腰を浮かせた彼へ、サクヤの静かな声が飛ぶ。
「先ほど言っていた事件の際、連発式を含めた小銃とともに、軽迫撃砲七門が所在不明になっています。恐らく彼らは、それをこの街へ持ち込んでいたのでしょう」
努めて冷静な声で状況を分析しながらも、彼女の内心は平穏とは程遠い。
街から響いた轟音は、サクヤを戦場へと連れ戻していた。
過去、幾度となく経験した耐えがたい現実との対峙。その結果はいつだって同じだ。
サクヤの心は当然のようにあっさりと、その現実に敗北した。
怖い、怖い、怖い!
叫び出したくなる衝動。手が震え、膝から力が抜けてゆく。
何時だってそうだ。
何時だってこうだった。
何時だって、実戦のたびにこうして恐怖に震えて。
積み上げた勝利と同じ数だけ、サクヤの心は負け続けてきた。
なんて小心。
なんて臆病。
自らを罵りながらも、身体が震えていることを誰にも悟られないように、サクヤはそっと椅子に腰を下ろした。
目の前には、兵が彼女のために淹れてくれたお茶が湯気を立てているが、今は手をつけない。震える手で湯呑を持ち上げた際に、妙な音でも出してしまえば誤魔化しようがないから。
そう考えながら、サクヤの瞳は無意識に指揮所内を見回していた。
何かを、誰かを探し求めているような自分の行動の意味に気が付いた時、さらなる自己嫌悪が彼女を襲う。
何をしているのだ。私は。
サクヤは胸の中で、自分を叱った。
かつて、どんな戦場でも常に彼女の横に寄り添ってくれていたコトネは、ここにはいない。
彼女を呼び出さないと決めたのはサクヤ自身だった。
コトネには、こんなことよりももっと大事な仕事があるから。
「木花少佐、どうするのだ」
ほんの数寸だけだが、黙り込んでいたサクヤへマレツグが詰め寄った。彼女はそれを無視して、無線へ呼びかけた。
「先遣隊、無事ですか? 榛名大尉?」
『大丈夫です。全員、無事です』
しばらく間をおいて。先遣隊の無線手、楠城が咳き込みながらサクヤの呼びかけに応答した。
ほっとしたような吐息がサクヤの口から漏れる。しかし、今は彼らの身の安全を配慮している場合ではない。
「任務の続行は可能ですか?」
『問題ありません』
「敵は最大で、七門の軽迫撃砲を有している可能性があります。恐らく、街の大通りに向けて照準を据えているのでしょう。不用意に通りへ身を晒さないように。路地を進んで、迫撃砲陣地の位置を特定してください。可能であれば、その排除を」
『了解しました』
通話を切ったサクヤは、指揮所の出入り口に立っていた兵へと振り向いた。
「邑楽大尉をここへ」




