007
先遣隊が街へ入り込むなりだった。
「来たぞ!!」
鋭い警告の声とともに、銃弾の嵐がコウたちを襲う。
「ちっ……連発銃なんぞ、どこで手に入れやがった」
街に入るために使った用水路の中で腰を屈めながら、コウが悔しそうに唸る。
「開拓部隊に支給されてんのは、鎖閂式の〇4式小銃のはずだろうが」
そう毒づいても、事実として叛乱部隊の持つ銃は金切り声をあげて弾をバラまいている。
「大当たりですねぇ、大尉殿!」
さっそく用水路の中で身動きが取れなくなった現状を皮肉るように、彼の横で瀬尾が大声を出した。普段なら問答無用で殴られるような言動だが、流石のコウもこの状況でそれはできない。
「手榴弾!」
瀬尾の皮肉には取り合わず、彼は怒鳴った。
弾かれるように瀬尾が手榴弾を懐の雑嚢から取り出して、安全針を引き抜く。どちらともなく目を合わせてから、コウが頷いた。
それを合図に瀬尾が手榴弾を用水路の外へ向けて、頭越しに放り投げる。
警告の声。続いて、頬を張るような炸裂音が響く。
先遣隊が身を隠す用水路の中にも、衝撃とともに大量の土煙が吹き込んだ。
「着いてこい!!」
頭上から降り注ぐ砂をものともせず、コウが用水路の外へ身を躍らせた。
溝の縁に立って、舌打ちを漏らす。砂煙が立ち込めていて、ほとんど視界が無い。
その上、敵の立ち直りは早かった。すでに煙の中から銃声が響き、弾丸がコウの脇を掠めている。気にせず、彼は煙幕の中へ踏み込んだ。
最初にふらりと彼の前に姿を見せたのは、幼いとはいわないまでも十分に若い少年だった。爆発の衝撃で怯んだのか。その表情は半ば茫然自失としている。
その頭を、コウは手にしている小銃の銃床で容赦なく殴りつけた。少年が昏倒する。その背後から、新たな敵の影が伸びた。
対応しようと、銃を半回転させて構えなおす。しかし、コウが引き金を引くよりも早く、彼の背後から発砲音が響いた。
煙を引き裂くように、彼の横を弾丸が通り抜ける。もうもうと立ち込めた土煙の向こうで、紛れもない断末魔が上がった。
コウはさっと振り返り、頷いた。
そこには硝煙の立ち昇る小銃を構えた、伊関の姿があった。
「押し進むぞ! 瀬尾、伊関は俺の援護! 楠城は本部に報告しろ! 敵二名排除! 氾濫部隊は連発式小銃を所持している!」
「了解!!」
「……大したものだな。本当に、彼らだけであの街を墜としてしまいそうだ」
先遣隊から続々と上がってくる報告に耳を傾けていたマレツグが、感に堪えぬといった声で呟く。
「……いくら榛名大尉と言えど、そこまで期待するのは無理があるかと」
報告された情報を卓上に広げた第1151開拓村の市街図へ書きつけながら、サクヤは冷静に返した。
――もっとも、コウ君なら本気でやりかねないけれど。
そんな内心の呟きは、外には漏らさない。
「しかし。彼らはいったい、どこから連発式小銃を手に入れたのか。アレは戦時中の調達が間に合わず、実戦配備されるのは今回が初めてのはずだが……」
「……夏に起きた、近衛による叛乱事件の際。陸軍の造兵廠に保存されていた銃器が盗み出されたという事案がありましたね」
考え込むように顎に手を当てたマレツグへ、サクヤが静かに答えた。
「つまり……七倉大尉はあの近衛不祥事件にも関わっていたと?」
「分かりません」
サクヤは首を横に振った。
「七倉大尉がいつから、議会と軍事的に対立するための準備を進めて来たのかはともかくとして。その情報によれば」
『先遣隊、街の大通りに出ました。障害物多数!』
何かを言いかけたサクヤを遮って、再び無線から報告が響く。
「排除は可能ですか?」
それに、一旦思考を打ち切ってサクヤは訊いた。
『敵が多くて無理です。そこら中から撃たれて――大尉殿っ!!』
先遣隊の無線手、楠城が報告中に突然、大声を発した。
サクヤには、その理由を問い質す必要が無かった。
ほぼ同じ瞬間。紛れもない砲声が、街から響いてきたからだった。




