006
「さってと。聞いてたな、おめえら」
通信が切れた通話機を、無線機を背負った兵に返しながらコウが振り向く。
そこには、この任務のために彼自らが第五中隊の中から選び出した三人の兵の姿がある。
「誰一人、勝手にくたばるんじゃねぇぞ」
脅すように言ったコウに、三人が真顔で頷く。
「ざっと見て来た限り、街の中へ入り込めそうな場所は三か所です」
三人のうちの一人である瀬尾曹長が、先ほどコウに殴られた頭を擦りながら口を開いた。
彼は胸元から第1151開拓村の簡単な見取り図が描かれた紙を取り出すと、それを全員が見られるよう足元に広げて、丸で囲んだ地点を一つひとつ指さして説明してゆく。
「二つは、街の東西を繋ぐ大通りから入る道です。どちらも拒馬で塞がれてますが、退かせないこともないでしょう。もう一つは、街の周りに掘られた用水路を伝って街の南から中へ入る方法です。まあ、どれをとっても警戒されているでしょうし、安全とは言えませんが」
「南だな」
直感的にコウが決断した。
兵たちから異論は出なかった。
事、戦場における彼の嗅覚を今さら疑う者など、この場にはいない。
「んじゃあ、行くか」
「ところで大尉殿。本当に鉄帽いらないんですか?」
話は決まったと、小銃を担いで立ち上がったコウに先遣隊で一番、歳の若い兵が尋ねた。
それは夏に起きた近衛不祥事件の解決とともに軍へ復帰した、あの伊関という二等兵だった。もっとも、現在その肩には伍長の地位にあることを示す赤地に金の一本線が煌いている。
この中で一番年下とはいっても、彼は第587連隊において、連隊が経験した主要な戦闘の全てに参加してきた歴戦の強者だ。戦時中はコウの部下ではなかったが、今回、その戦歴を買われて先遣隊の一人に選ばれていた。
「いらん、いらん。そんなもん、鬱陶しい。弾なんぞな、要は当たらなければいいのだ」
伊関の質問に、コウは無造作に刈ってある髪の毛をくしゃくしゃと触りながら、さも簡単なことのように答える。
「えぇ……」
伊関ともう一人、楠城上等兵が疑問に満ちた顔を見合わせる。
面長な顔面が特徴の楠城は、中隊における体力検定の満点保持者であり、先遣隊で一番体格も良いことから、無線機を背負わされている。
「いいか、お前ら。危なくなったらな、遮蔽物の影じゃなくて、大尉殿の背中に隠れるんだぞ」
不安げな彼らに、腰に手を当てた瀬尾が言う。
「何を隠そう、このお方は我らが帝国陸軍が技術の粋を凝らして作り上げた、人型弾道歪曲装置なのだからな」
きっぱりと彼が言い切った時。その背後に、怒りの炎に包まれたコウがゆらりと立った。
「おい、瀬尾。これが終わったら話がある」
「ひゃい!」
コウの剣呑な囁き声に、瀬尾は背筋を伸ばして、情けない声をあげた。




