005
ああ。言った。言ってしまった。
もう戻れない。もう、後悔も許されない。
頭と心が、急速に凍りついてゆく。
そんなサクヤへ。
『素晴らしい』
無線から、うっとりとしたヤトの声が響いた。
『素敵だ。そうでなくては』
これから始まるであろう何もかもが待ち遠しいと言うように、素敵だと、彼が繰り返す。
「期待を裏切るようで申し訳ないけれど、すぐに終わらせてあげるわ」
冷たく言い放って、サクヤは一方的に通話を切った。
「秘匿回線に切り替えて」
ヤトとの通信を終えたサクヤが無線手へ命じた。素早く無線機を操作した兵が頷くと、彼女は無線に呼びかけた。
「榛名大尉?」
『はい、こちら先遣隊指揮官の榛名コウ大尉であります!!』
通話機からは、この上なく弾んだコウの声が返ってきた。
「七倉大尉はあくまでも、投降するつもりはないようです」
『では。我々の出番ということで』
食い気味に答える彼へ、サクヤの眉が心配そうに下がる。
「情報部からの報告によれば、この街には中隊規模の開拓部隊の他、少なくとも三百名ほどの元陸軍将兵が集まっていると。以後、彼らのことは第1151開拓村反乱部隊と呼称します……榛名大尉、分かっていると思うけれど」
『もちろん。すこぶる了解しております! 宝船に乗っかったつもりでお待ちください!』
もはや言葉の使い方が何もかも違うが、それを訂正する気にもなれない。
「まさかとは思いますが……任務の内容は把握していますね、大尉? 一応、復唱してもらえますか?」
『は。あー、えーと……我々の任務は……』
案ずるような吐息を漏らしてからサクヤが訊くと、途端にしどろもどろの返答が返ってくる。無線の向こうからこそこそと聞こえてくる「新型連発銃の実地試験じゃないのか?」「違いますよ大尉」なんていう会話は断じて気のせいだと思いたい。
『失礼します』
サクヤが頭を抱えたところで通話に割り込んできた声は、コウの右腕である瀬尾曹長のものだった。
『我々、先遣隊の任務は本隊に先んじて街へ潜入し、敵の人数、装備、配置などの情報を司令部へ報告し、本隊突入を支援することであります。本隊の突入後はこれと協働して、敵の首魁とみられる七倉ヤト大尉を捜索。発見次第、身柄を拘束、若しくは確保します』
「ありがとう、瀬尾曹長。……貴方がいてくれてよかったわ」
すらすらと任務内容を復唱した彼へ、サクヤは心からお礼を言った。
『へへへ……光栄でありま、いたっ!』
サクヤから褒められて、嬉しそうにしていた瀬尾が突然、悲鳴を上げた。
『っつ~~……た、大尉殿、酷いです。いきなり殴るなんて……』
『うるっせえ、出しゃばりやがって』
『だって大尉、憶えてなかったでしょ』
そこでもう一度、無線の向こうで鈍い音が響いた。再び瀬尾の悲鳴。
『あー。ごほん。そういうわけであります』
そして、何事もなかったかのように取り澄ましたコウの声。
「念のために言っておきますが、あちらから攻撃を受けない限り、こちらから戦端を開くような真似は厳としてください……それから、みんな、気を付けて」
『お任せください。うちの中隊でも、選りすぐりどもを選びましたから』
緊張感のない彼らに、真面目な声で告げたサクヤへ、コウはやはり何処までも自信満々に応じた。
「……本当に彼で大丈夫なのか?」
通話を終えたサクヤに、マレツグが顰め面を向けた。
「心配はないと思います」
コウと話していた時とは打って変わって。サクヤは信頼に満ちた声でそれに答えた。
「彼にできないのなら、他の誰にも任せられませんから」




