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桜花舞う!!  作者: 高嶺の悪魔
第三章 秋(後) 夢の続き
152/205

013

「そんな戦争を終わらせるためには、どうすればいいと思う?」

 一通りの説明を終えた所で、唐突にソウジが尋ねた。

 答えを知っているらしいミツル以外の二人が考え込むように首を捻る。コウは論外として、軍事に関して何らの知識も持たないミヤコには難しすぎる問題だった。

「たとえばだけど、燃え広がった山火事を消すのに最も手っ取り早い方法は何か、分かるかい?」

 思考のとっかかりすら見つけられないという顔の彼女へ、ミツルが助け舟を出すように言った。

「……水をかける、ですか?」

 それに、ミヤコが自信なさそうに答える。自分でもこの答えが陳腐だと自覚しているらしい。

「分かった。雨乞いをする」

 そこへ、名案を思い付いたとばかりにコウが膝を打った。

「馬鹿のくせに発想を飛躍させるな。馬鹿」

 すかさず、ソウジが彼の答えをバッサリと切り捨てる。

「答えはね。さらに火の勢いを強めてやるのさ」

 何だと、と唸って腰を浮かしかけたコウを宥めながら、ミツルが教えた。

「燃えるものがなくなれば、自然と火は消えるからね」

「木花がやったのは、つまりそれと同じことだ。あいつは大戦に参加していた主要勢力である欧州皇国、北方連邦、そして、我が帝国の、その全てがまったく同時に戦争継続が不可能になるよう仕向けたんだ」

 その後を引き継いで、ソウジが纏めた。

 はぁ……と、ミヤコが得心のいっていない声を漏らす。

「でも、そんなことが」

「できたんだよ。正真正銘の天才だったのさ、あいつは」

 疑問を口に出す彼女へ、ソウジが何もかもを投げ出すように両手を上げながら答えた。

「大戦末期は、何処の戦域でもだらだらとした小競り合いが続いていた。どの国も勝つ気がないくせに、戦いを辞めるつもりはさらさらなかったからだ」

 だから、サクヤは勝ち続けるしかなかった。

 停滞した戦況を激化させて。敵も味方も限界まで潰し合わせる。実際、サクヤが勝てば勝つほど戦闘は激しくなった。

 敵も味方も、勝つ意思は希薄でも、負けまいとする思いは別だから。そして。

「そして、遂に限界が来た。損害の激増と、物資の不足から敵がこれ以上サクヤを止める術が無くなった時。同様の理由で、帝国はこれ以上サクヤを勝たせる術が無くなった。そこでようやく、勝利でも敗北でもない、三者引き分け。停戦という結果を引き出した……膨大な犠牲の末に」

 ――私がいったい、どれだけ殺したと思っているの。

 ――私がいったい、どれだけ死なせたと思っているの。

 ソウジの脳裏に、サクヤの悲痛な叫びが甦る。

 その通りだった。

 大戦全期を通した戦死者数は、正確な統計こそないものの、全世界でおよそ五億から七億といわれている。大戦最後の一年間における戦死者は、実のその三割を占めていた。

 それだけの犠牲を強いて、サクヤはあの戦争を終わらせたのだ。

 戦争最後の一年は、まさにサクヤの、サクヤのためだけの戦争だった。

 戦いを終わらせるために、敵も味方も、最後の一兵まで相打ちにさせて。

 自分の理想のためだけに、数えきれないほどの屍の山を築きあげて。

 それをサクヤが知らないはずがない。その意味を理解していないはずがない。

 そして、ならば。彼女がそのことを気にしていないはずが無かった。

 良心の呵責などという言葉では到底、表しきることができない罪悪感に苛まれながら、きっとサクヤは今もなお、己の心の中の法廷で自らへ死刑を宣告し続けているのだ。

 けれど、それでも。


「――それでも、戦争は終わりました」


 静かに紡がれたその言葉に、ソウジははっとして顔をあげた。

 今、自分が言おうとしていた言葉を彼の代わりに口にしたのは、ミヤコだった。

「それでも。戦争は終わりましたから」

 もう一度、彼女が繰り返す。

 それだけが大事なのだと。それだけが大切なことなのだというように。

 恨むでもなく、悲しむでもない。ただ感謝を込めて。

 サクヤの下で戦った兄への想いを抱きしめるように、胸に手を当てて。

 確かめるようにもう一度、ミヤコは言った。

「それでも。戦争が終わったのは大佐さんのおかげなんですよね」


「そうだ」

 半ば放心しかけながら、ソウジは彼女の言葉に何度も頷いた。

 そうだ。そうなのだ。

 それだけで良いのだ。それだけで十分なのだ。

 それなのに。畜生。

 ソウジは心の中で罵った。

 それなのに。どうしてどいつもこいつも。何故、あいつがまた戦わなければならないのだ。

 どうすれば、この馬鹿げた何もかもを終わらせることができるのか。

 簡単だ。

 彼にも分かっている。シュンの言葉は正しい。

 木花が天下を獲ってしまえば良いのだ。

 大戦を止めた、あの時のように。

 あいつの理想を邪魔する者は、全て自分たちが蹴散らしてやればいいのだ。

 俺たちにはそれができる。第587連隊にはそれができる。

 問題は、彼女が決してそれを許さないだろうということだった。

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