012
しばらくの間。店の中は静まり返っていた。
憮然と黙り込んだソウジから目を離して、ミツルとコウは窺うような顔でミヤコを見た。
彼女は告げられた言葉の意味を噛み砕くように目を瞑って、胸に手を当てていた。
「……やっぱり。そうだったんですね」
やがて。どこかすっきりとした表情で、ミヤコが言った。
「ずっと不思議だったんです。どうして、大佐さんが私にあんな良くしてくれるのか」
その理由がやっと分かりましたと、彼女ははにかんだ。そこへ、コウのぶっきらぼうな声がかかる。
「お前の兄貴は、帝国陸軍一の精兵だった。この俺が確約してやる」
照れ隠しのつもりなのか。腕を組んでふんとそっぽを向いてしまった彼へ、ミヤコは少し寂しそうな笑みを向けると、小さな声で「ありがとうございます」と礼を言った。
優しさの表現がどこまでも不器用なコウの背中を、ミツルが褒めるように叩く。
「教えてください」
ミヤコは毅然として、ソウジへ尋ねた。
「大佐さんが、本当は何をしたのか」
「……まず、帝国が戦争に勝ってはいないというのは事実だ」
少しの間、どう答えたものかと悩んでいたソウジは静かに口を開いた。
「そうなのか?」
間髪入れずに聞き返したのはコウだった。
「お前な……」
ミツルが頭を抱えるように呻いて、少し黙ってろと彼の頭を叩く。
「そう……ですか」
一方のミヤコは、静かにその真実を受け入れたようだった。けれど、長くなるからと勧められた椅子の上で、小さな手がぎゅっと握りしめられている。
ソウジはその理由を、今度は誤解しなかった。
これまで、この国の者たちは大戦を勝利に導いたという理由で、サクヤを英雄視していたのだ。それが嘘だったとなれば、確かに裏切られたような気分にもなるだろう。
サクヤがこれまで、その理由を否定してこなかったというのもあるのだろう。しかし、彼女は真実を口にすることを禁じられていたのだ。
この件で責められるべきは、決して彼女ではない。
それを説明するように、ソウジは言葉を続けた。
「そもそも。あの戦争はもうどこかが勝ったからといって終わるようなものではなくなっていた。というよりも、負けを認めることができなくなっていたと言った方が適切だな」
まず、大きな理由として賠償金の問題があった。
長きに渡った戦乱の末、天文学的に膨れ上がった賠償金を支払えるだけの余力が、疲弊しきった各国には残っているはずがなかったのだ。
当然。敗北を認めてしまえば、たちまち国家は破綻する。
そして、逆の場合。勝利したとしても話は変わらない。
賠償金を得られない勝利になど意味はないからだ。どの道、途方もない負債だけが残る。待っているのは同じく、亡国の運命だけだ。
「そしてもちろん、意地の問題もあった。負けるくらいならば、国ごと滅んだ方がマシだという」
ため息を吐くようにソウジは言った。
「そうして、各国が行き着いた結論は同じだった」
死なば諸共。
もはや、勝ち負けという次元の話ではない。
何時か。共倒れするその日まで。ただひたすらに殺戮の応酬を続ける。
無論。そんな単純な話でもないのだが。
ソウジは皮肉そうに口の端を吊り上げた。
どの国も戦争の終結を望まなかったのは、戦時体制にある限り、国家の負債がどれほど膨らんだところで言い訳が立つからだ。いずれ、勝利すれば全てを帳消しにできるというまやかしが。
それが、五十年にも及んだ大戦争の真実だった。




