011
「あのぅ……」
会話の途切れた三人に、ミヤコがおずおずと近づいてきた。今まで、遠巻きに声を掛ける機会を見計らっていたらしい。
「あの、お客様、ご注文は……?」
窺うような顔で尋ねる彼女へ、ソウジは瞑目したまま答えない。彼の対面では、卓の上にあった品書きを手に取ったコウが「酒はないのか」と残念そうに漏らしている。
困り果てたように立ち尽くすミヤコへ、ミツルが何度も謝りながら珈琲を三杯注文した。
「それにしても。サクヤがそこまで追い詰められていたとはな」
注文を聞き終えたミヤコが席から離れていったところで、ミツルがぽつりと言った。
「……いや、考えてみれば。当たり前か」
「俺のせいだ」
自嘲するような笑みを浮かべる彼に、ソウジも頷いた。
「木花が、あいつが。戦争を終わらせるためとはいえ、あれだけのことをしておいて。平然としていられるはずが無かった」
「あの」
後悔に苛まされている彼へ、店の奥に向かおうとしていたミヤコから突然、声が掛かった。
顔をあげると、何か言いだしたくて堪らないが、それを口に出していいものかどうか悩んでいる様子の彼女と目が合う。けれど、やがて。
「あの」
意を決したように、ミヤコが口を開く。
「大佐さんはいったい、何をしたんですか?」
「ああ。いや……」
率直な彼女の質問に、ミツルが誤魔化すような声を横から出した。しかし、そうやってはぐらかそうとする彼から、ミヤコは引き下がらなかった。
「街の人たちがみんな、大佐さんの悪口を言っているんです。昨日まで、そんなことなかったのに」
「……君は、例のあれを読んでないのかい?」
悲しそうに言った彼女へ、ミツルが聞き返す。ミヤコはただ首を振っただけだった。
「でも。あの、本当に、大佐さんはみんなが言うような、悪いことをしたんですか」
ミヤコは辛そうに訊いた。
人殺し。叛逆の大罪人。口さがない者たちが、サクヤを罵るそんな言葉は、口が裂けても言いたくない。ただ、真実が知りたいだけ。そんな彼女へ。
「悪い?」
突然、ソウジが大声を出した。
「悪いだって? あいつが? あいつが大罪人なら、俺たちはなんだ。救いようのない大馬鹿じゃないか。俺たちだけじゃない。この国にいるどいつも、こいつも」
噛みつくように、語気を荒げる彼から、ミヤコが怯えたように数歩後ずさる。
「落ち着けよ、ソウジ」
見かねたミツルが口を挟んだ。
「構うものか」
ソウジは聞かなかった。
「どうせもう、どいつもこいつも知っちまったんだ。ならば、俺たちが一人にくらい弁明してやらねば、あまりにもアイツが惨めじゃないか」
「だからって、なんでこの子なんだ」
罵るような口調の彼に、ミツルが呆れた声で訊き返す。ソウジはそれに応えず、ミヤコを見た。
「東ミヤコさん、ですね」
「え。あ、はい……」
突然、名前で呼ばれたミヤコは戸惑ったように頷いた。
ソウジの対面では、ミツルとコウがどういうことだと顔を見合わせている。
そんな彼らに、ソウジが告げた。
「彼女の兄は、木花の下で戦死している」




