第十四話
「……刺身はないか」
座卓の上をざっと見渡したソウジが残念そうに零していたが、サクヤからしてみれば十分以上の御馳走だ。先ほどの不可解なやり取りは頭の隅に追いやって、改めて料理に向きなおる。
「た、食べていいの?」
料理が運ばれている最中からずっとそわそわしていたサクヤが、待ちきれないとばかりにソウジに訊いた。今日は紅茶以外、何も口にしていなかったことを思い出して、一気に空腹感が押し寄せている。
早く、早くと急かすようなその様子に、ソウジは思わず苦笑を漏らしながら頷いた。
「ああ。冷めないうちに、食べてしまおう」
言って、橋に手を伸ばす。サクヤも急いで箸を掴むと、そのまま胸の前で両手を合わせた。
「いただきます!」
元気よく言ったサクヤに続き、他の者たちも箸を手に取った。
「美味しい!」
まず鶏肉の煮物を口に放り込んだサクヤは、その肉の柔らかさに思わず、驚きの声をあげた。柔らかい鶏肉など、初めて食べたからだった。
今の帝都では、肉といえば卵を産まなくなった廃鶏や、老いて農作業に使えなくなった牛馬を潰したものだけで、焼こうが煮ようが硬くて筋だらけのものばかりなのだ。唯一、豚だけは食用として育てられているために不味くはないが、それだってまだまだ一般に流通してはいない。
戦後どころか、戦中も長らくそのような状況が続いていた上に、戦場での食事などそれに輪をかけて酷いものだったのだから、柔らかい鶏肉にサクヤが驚くのも無理はなかった。
「あら、本当……」
横で同じものを食べたコトネも、口元に手を当てて感嘆の声を漏らしている。
「畜生、うめぇ……! 俺たちはいつも小骨だらけの、やせっぽちの小魚ばかりだってのに……」
卓の向こう側ではコウが、しっかりと身の詰まった焼き魚を解しもせずに箸で持ち上げて、そのまま齧りついていた。
「お前……こんな料亭でその喰い方はないだろ……」
その横では、綺麗に魚を解体しているミツルが顔を渋くしていた。
「ソウジの言う通り、こういうところでの食事に慣れていないヤツが一人いたな」
サクヤの左側で、シュンが一人静かに呟いていた。
そうした反応を見ていたソウジが、企みの成功した悪戯っ子のような笑みを浮かべると口を開いた。
「昨年の、第一次収穫を終えた各地の開拓村からの作物がようやく帝都にも届きだしてな。まだまだ一部だけだが、家畜用に回す穀類にも余裕が出てきた。これからは、帝都の台所事情も改善してゆくだろう」
得意そうにそう語るソウジだったが、その話を聞いている者は一人もいなかった。
サクヤたちは黙々と箸を動かし、目の前の皿を綺麗にしてゆく。それになんとも言えない表情になったソウジだったが、まぁ、すっかり軍隊生活が染みついているから仕方がないかと苦笑した。
これと言った会話もなく、無言で食事を続けたサクヤたちが卓上の料理を全て平らげるまで、それほど時間はかからなかった。全員が食べ終わり、一息ついたところで頃合いを見計らったかのように年配の女中がやって来て、卓の上を片付けてゆく。去り際に、あとで食後の甘味をお持ちしますねと告げて、彼女は去っていった。




