010
昼の混乱も落ち着き、帝都が仮初の平穏に微睡んでいる、その夜。
街でひっそりと営業を続けている喫茶店、琥翠堂の店内には物珍しい三人組の客の姿があった。すでに閉店まで間もない時刻だったためか。彼ら以外に客はなかった。店主の姿もなく、店には割烹着姿の若い女給仕が一人いるだけだった
「議会はカンカンだ。老人どもは首まで真っ赤に染めて、あの街に立て籠もる連中を即時鎮圧せよと叫んでいる。今や、七倉ヤトの名は朝敵と同義だ」
一緒に来た二人と卓を挟んで腰を下ろしたところで、そう口を開いたのはソウジだった。
今は勤務外なのか、或いは単に仕事を抜け出してきただけなのか。対面に座る軍服姿の二人とは違い、書生風の着流しに身を包んでいる。
「大したもんだ。我らが同期も」
国防色の外套を適当に脱ぎ捨てながら、コウが褒めるような声で応じた。
「朝敵とはなぁ」
そう呟く彼の態度は、不謹慎にもこの状況を楽しんでいるようだ。
「それよりも、サクヤはどうなんだ」
その横から、ミツルが心配そうに尋ねる。昼間の騒ぎに駆り出されていたところを、ソウジから呼び出されたため、その顔には若干の疲れが見えた。
「駄目だ。面会もできん」
ソウジは悔しそうに首を振った。
「なっさけねぇ」
小馬鹿にするように、コウが鼻を鳴らす。
「散々、偉そうな口を叩いてたくせに……」
「やめとけ」
ソウジを責める彼を、ミツルが叱った。
「俺たちが言えた義理じゃないだろ」
それに舌打ちしながらも、その通りだと思っているのか。コウはそれ以上何も言わなかった。
「そっちはどうなんだ? 部隊の連中はなにか言っているか?」
こちらの方が大問題だというようにソウジが尋ねる。案じるような顔の彼とは対照的に、ミツルは肩を竦めて答えた。
「今さら、サクヤについて何を聞かされたところで、簡単に宗旨替えするような連中だと思うか?」
逆にそう訊き返されて、ソウジはほっとしたように息をついた。
疑っていたわけではないが、これで少なくとも第587連隊の者たちは大丈夫だと分かったからだった。
シュンが言っていた通り、騒動が一段落してから改めて状況を確認したところ、軍から数名の離反者が出ていることが判明したのだ。
今は一応、任務中行方不明という扱いにしてはいるが。姿を消した数名については、最後に言葉を交わした者たちから聞き取りを行った結果、どうやら第1151開拓村へ向かったらしいことが分かっている。
ソウジからそのことを聞かされると、コウとミツルは腕を組んで黙り込んだ。
事態は彼らが思っていた以上に深刻だったのだ。




