008
軍刀を一閃したような、鋭い沈黙が部屋に奔った。
ソウジは何かを堪えるように、ゆっくりと立ち上がると机を回り込んでシュンの前に立った。
そして。
「お前はっ……いったい、何をしてやがった!!」
突然、怒鳴り声をあげて彼はシュンの胸倉を突かんだ。そのまま、彼の痩せた身体を力任せに持ち上げて壁へ叩きつける。
「こんな事態になるのを防ぐために、お前らがいるんじゃないのか! ええ? 情報部!!」
「離してくれ」
問い詰めるソウジに、シュンは常と変わらない無表情で答えた。
「僕は別に、君と殴り合いに来たわけじゃないんだ。第1151開拓村の最新情報を――」
「ふざけるな!!」
ソウジの一喝に、彼はやれやれといった調子で溜息を漏らす。
「こいつを見ろ」
まるで他人事なシュンを机の前まで引きずっていくと、ソウジは例のビラを一枚、その鼻先に突きつけた。
「まさか、これを知らないとは言わせんぞ。連中を探ってたんだろう? だったら、この程度のことを見逃すようなお前じゃないだろうが、識防!!」
「ああ」
そこで初めて、ソウジが怒っている理由を理解できたというようにシュンが頷いた。
「これは、これで良いんだよ」
「何を……なにを言ってやがる……」
信じられないその返答に、ソウジの唇が引きつったように震える。
「これのせいで、木花がどうなるか分からないのか。お前は」
愕然として、彼は訊いた。
「こいつを読んだ連中が、木花をどう思うか。そんなことも分からないお前じゃないだろう」
今朝はまだ、疑問や怒りの矛先が議会に向けられていたからよかったものの。
しかし、明日はどうなるか。
大衆は常に、不平不満の責任を誰かにとらせようとする。彼らにとって、自分たちを不快にさせたというのはそれだけで罪なのだ。
そして、その罪は誰かが償わなければならないと考える。
ならば。この告発文を読んだ彼らが次に矛先を向けるのは、間違いなくサクヤだ。
何故か。この告発文の中で、明確に名を挙げられているのが彼女だけだからだ。彼らにとって、それだけで十分だから。
「明日には、あいつについて、愚にもつかない高説を垂れ流す輩が帝都中に溢れかえるぞ。あることないこと尾ひれをつけて。まるで自分だけが正義の徒だとでも言うように。そんなことも」
分からないのか。ソウジがそう続けようとした時だった。
「君こそ、分からないのか」
どこまでも冷たい声で、シュンが彼を遮った。
胸倉を掴んでいるソウジの手を払いのけて、彼は机の上からビラを一枚取り上げる。
そして、ソウジに向き直った彼は預言者のように言った。
「これだけが唯一、あの子を解放するんだ」




