007
帝都が一旦の落ち着きを取り戻したのは、昼も過ぎた頃だった。
詳しい説明を求めて議事堂に詰めかけていた住民たちへ、ようやく議会が声明を出したのだ。
「今回の騒動の発端となった怪文書について、現在、その詳細については調査中ではあるものの、そこに書かれている事柄は全て、事実無根である」
議員たちの代理として矢面に立たされた議事堂警備責任者の大尉が読み上げる議会の声明文はそう始まり、そして次のように締めくくられていた。
「これは諸君らに軍と議会に対する誤解を植え付け、諸君らを疑心暗鬼に陥らせ、帝主と諸君らを分断せんとする敵の策謀である。くれぐれも、賢明なる帝都臣民はこのような戯言に惑わされることのなきように。帝主陛下は諸君らに、軽率な言動を慎み、節度と良識のある行動を望んでおられる」
それは何の説明にもなっておらず、要約すれば大人しくしておけと言っているだけだったのだが、帝主の名を出した効果は小さくなかった。
押しかけている者の多くが、老人だったこともその大きな理由だろう。
議会や政府をどれほど疑っていても、帝主の名のもとに告げられた言葉を疑うという習慣が彼らにはなかったから。
議会の声明文は電信や伝声機を通じて街中に伝達されると、参謀本部を包囲していた住民たちも引き上げていった。
執務室の窓からその様子を眺めていたソウジは、大きく息を吐くと椅子に沈み込んだ。
座った途端、急激な徒労感が全身にのしかかる。
昨日、今日とろくに寝てもいなかったため、瞼は鉛のように重かった。
考えるべきことや、処理すべきこと。出さねばならぬ指示など、山のようにあるのだが、今は先のことすら考える余裕もない。
混濁した思考に微睡んでいると、扉の叩かれる音が響いた。
束の間の平穏すらも与えられないのかと、ソウジは気怠そうに目を開けた。
どうせ、また副官がろくでもない報告を持ってやってきたのだろう。そう思いながら、開かれた扉へ顔を向ける。
「……お前は」
その喉が、低く震えた。やってきたのは、副官ではなかった。
「識防」
わずかに険のある声音で、その名を呼ぶ。
「やあ」
ソウジの厳しい視線を浴びながら、識防シュンは片手を上げて、気の抜けた挨拶を返した。




