006
「よくもやってくれたと、言うべきでしょうか」
上官の気分を少しでも変えてやろうという気遣いなのか。杉山が肩の力を抜くような声で言った。
「しかし、分からん」
彼の気遣いを有難く受け取りながら、ソウジは憮然と呟いた。
「木花の真実が何であれ、どうしてああも彼らは怒り狂えるのだ」
そもそも。サクヤが何をしたのか。その結果どうなったのかはともかくとして、彼女のおかげで戦争が終わったのは事実なのだ。やや曲解されてはいるものの、それはあの告発文にも書かれている。
確かに、その代償として帝国が失ったものは少なくないが。だからといって、サクヤ一人をやり玉に挙げるのはあまりにも身勝手が過ぎる。
「まさか、まだ戦争が続いていればよかったなどと言いだすんじゃないだろうな」
「ああ。いや、多分、彼らが問題にしているのはそこじゃありませんよ」
憤るソウジを訂正するように杉山が答えた。不可解そうな表情で振り向いた上官へ、彼は肩を竦めて説明する。
「彼らにとって一番の問題は、木花少佐が大戦を終わらせるために何をしたのかではなくて。あの戦争に勝っていなかったということなんですよ。少なくとも、戦争には勝利したという、それだけを心の支えに、彼らは貧しい暮らしに耐えてきたんです。それが嘘だったということは、これまでの我慢が全て無駄だったと言われるようなものですからね」
そう言った杉山の声には、何処か羨むような響きがあった。
「信じられない」
言葉通りの表情で、ソウジはもう一度窓の外を見た。
「そんな嘘を、心の底から信じられた人間がこれほどいたとは」
「まあ、ともかく」
呆気にとられた様子の彼に、杉山が妙に明るい声を掛けた。
「今のところ、我々にできることはこれ以上ないでしょう。後は議会に任せるしかありません。とは言っても、告発文の後半で昨晩の、織館さんの一件までばらされましたから、議会の信用は大いに揺らいでいるでしょうが」
「大いに揺らいでいるか。随分と、優しい表現をするんだな、副官」
「ええ。これでも官吏の端くれですからね。自分も」
そう軽口を叩いた彼に、ソウジは小さく笑った。
とは言っても、すでに議会の信頼など地に落ちたと言っても過言ではない。
信頼回復のため、議会がまた無茶なことをしなければいいが。
などと。無駄だと思っても願わずにはいられない。
もちろん。願いなどというものは、常に現実の前に押しつぶされることを知ったうえで。




