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桜花舞う!!  作者: 高嶺の悪魔
第三章 秋(後) 夢の続き
144/205

005

 大罪人、木花サクヤの真実


 今日こんにち、大戦を終わらせた英雄として称えられている木花サクヤ大佐について、諸君の内で知らぬ者はいないだろう。

 しかし、我々はここに告発する。

 彼女は自らの栄達のため、悪戯に戦火を煽り立てた戦争犯罪人に過ぎない。

 自らの戦果のため。自らの昇進のためだけに、彼女は御国を無謀なる消耗戦へと引きずり込んだのだ。

 その結果、多くの帝国軍将兵の命が無為に失われたのみならず、陸海軍を崩壊寸前にまで追い詰め、遂に帝国は宿敵であった欧州皇国と北方連邦より提示された停戦合意を受け入れざるを得なくなったのである。

 つまり。御国が現在のような困窮の淵に立たされ、国民の多くが苦しい生活を余儀なくされている全ての原因は、木花サクヤ大佐にあるのだ。

 これについては、軍功を振りかざす彼女の横暴を黙認した大本営。そして、停戦を勝利と偽って発表し、今もなお国民を欺き続けている帝国政府もまた責任の追及を免れないであろう。

 我々は、この真実を白日の下に晒し、帝国政府並び軍部が直ちに、この大罪人を極刑に処することを――


「――何を考えてやがるっ!!」

 机の上に置いたそれを半分まで読んだところで、御代ソウジは文面に右手を叩きつけた。

 そのまま握りしめて、くしゃくしゃに潰してしまう。

 今朝早く、この告発文が見つかってからというもの、参謀本部は混乱の極致にあった。

 帝都の町人から通報を受けて出動した治安維持部隊が持ち帰ったビラを見るなり、参謀総長がただちに守備隊を総動員して回収に当たれと命じたからだ。彼はそれきり、あとのことをソウジに押し付けると、自分は報告のためにと議事堂へ行ってしまった。


「手荒く不味いです、閣下」

 ソウジがくしゃくしゃにしたビラをゴミ箱に投げつけたところで、断りもなく扉を開けて、副官の杉山大尉が飛び込んできた。普段は冷静沈着な皮肉屋である彼も、流石に今は焦りの色を見せている。

「状況は」

 張り手を喰らわせるような声でソウジが訊いた。

「確認できただけで五十か所以上、回収した枚数はすでに二百枚を超えています。ですが、すでに持ち去られたものも多く、どう見積もってもこの倍の数が帝都にばら撒かれたものと考えられます」

「畜生」

 ほとんど一息で報告を終えた杉山に、ソウジは罵るように唸った。

「そんなに戦争がしたいのか。あいつらは」

 犯人は捜査するまでもなかった。ご丁寧にも、告発文の末尾に第1151開拓村指揮官、七倉ヤトと名前が記されていたからだ。

「それと、これを目にした住民たちが説明を求めて議事堂を取り囲んでいるそうです。参謀総長閣下より、警備のために部隊を派遣せよと連絡が」

「できるもんならな」

 呆れ混じりに杉山が読み上げた上官からの命令を蹴とばすようにソウジは立ち上がった。そのまま窓へ近づくと、外へ目を向ける。

「ここだって、同じような有様だろうが」

 苦々しげに言った彼が見ているのは、参謀本部の出入り口に当たる警衛所だ。

 そこには押しかけた住民たちが、あのビラを片手に何事かを喚きたてている。彼らに詰め寄られている衛兵たちは、門が破られないようにするだけで精一杯の様子だった。

 そんな兵たちへ、ソウジは憐れむような視線を送る。

 現場指揮官である大尉や中尉たちはおろか、兵に詰めよったところで彼らが答えを知るはずもないのに。

「首相官邸や陸軍省も同じ有様だそうです。帝都練武台練兵場から部隊を出そうにも、一歩外へ出た途端に住民に捕まって身動きが取れないと。これは、ビラの回収に当たっている部隊も同様です」

 追い打ちを掛けるような副官の報告に、ソウジは大げさに肩を落とす。

「……全部隊へ。決して武器は使うなと厳命しておけ」

 諦めたように彼は指揮を執り続けた。

「良いか。たとえ町の者から暴行を受けたとしてもだ。決して反撃せず、最寄りの軍施設へ逃げ込むように。もしも、ここで一般の市民を傷つけるようなことがあれば、最悪の事態に発展しかねない」

 それは軍政家の彼らしい命令だった。

「それから。本部の残っている守備隊から一個小隊ほど選んで、警備のために議事堂へ向かうよう試みさせろ。いいか、あくまで試みるだけでいい。参謀総長閣下からの命令には従っているという姿勢さえ見せておけば、それで十分だ」

「はい」

 ソウジの言葉の、必要な部分だけを手帳に書きつけた杉山は、それを破り取るとたまたま部屋の外を通りかかった少尉を捕まえた。

 次長命令だという言葉とともに書付けを押し付けられた少尉は、大急ぎで廊下を駆けていく。

 その背中を見送ってから、杉山は扉を閉めた。

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