004
あくる日。
参謀本部の一室で眠れない夜を過ごしたサクヤは、死刑台に臨む面持ちで寝台に腰かけ、荒笠マレミツを待っていた。
返答はすでに決まっている。何も変わらない。
もう二度と、彼女は誰かに死を命じるつもりなどなかった。
だから、あとはそれを伝えるだけだというのに。
サクヤは手にしていた懐中時計へ目を落とした。それから、無意識に窓へ顔を向ける。
差し込む陽光はすでに高く、朝と呼ぶには遅すぎる時刻。
それでも一向に、マレミツは姿を見せない。
日の出から数えて何度目になるのかも分からない、落ち着きのない吐息がサクヤの口から漏れた。
閉ざされた部屋の中で、ただ待ち続けるというのはそれだけで精神的な拷問だ。
もちろん、彼がやってこないのには理由があるのだろう。
何かしら、突発的な事態が生じたのか。或いは、ソウジがサクヤのために何か、策を講じたのか。
何があったのか確かめようにも、外から鍵のかけられている部屋の中から外の様子を窺い知ることなど出来ず。ただ色々な想像が浮かんでは、すぐに消えてゆく。
マレミツがようやく姿を見せたのは、堂々巡りを続けるサクヤの思考が三巡目に差し掛かろうとした頃だった。
「君も随分と恨まれていたようだな」
やって来て開口一番、彼は疲れたようにそう言った。
「……どういうことでしょうか?」
用意しておいた返答を口にしようと立ち上がっていたサクヤは、訝しむように聞き返した。
「今朝早く、こんなものが帝都中に張り出されているのが見つかった」
マレツグは懐から紙の束を取り出すと、それをサクヤへ差し出した。
「“それ”のおかげで、街中が大騒ぎだ。事態を治めるために帝都守備隊を総動員しテイルが……」
諦観のようなものが滲む彼の声を聞きながら、サクヤは渡された紙へ目を落とす。
「あぁ……」
悟ったような溜息が、彼女の口から漏れた。
黙ったまま、一枚目、二枚目と目を通す。それぞれ、別人が書いたのか。達筆な文字で書かれたものもあれば、つい先日文字を憶えたばかりの子供が書きなぐったようなものまで、その筆跡は様々だ。
けれど、そこに綴られている文章は全て同じ。
それは「大罪人、木花サクヤの真実」と題された、告発文だった。




