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桜花舞う!!  作者: 高嶺の悪魔
第三章 秋(後) 夢の続き
141/205

002

 敷島少尉とは街の入口で別れ、ヤトは通りを奥へと進んだ。

 それに無言で従っていたヒスイだが、街の中心に当たる屋敷の前まで来たところで意を決したように、彼の背中を呼びとめた。

「七倉大尉」

 無言で、ヤトが足を止めた。

「彼は」

「仕方がありません」

 ヒスイが何を聞こうとしたのか分かっているように、振り返りながら彼は答えた。

「人手が足らない。使える者は使わなければ。たとえそれが何であっても。たとえそれが、誰であっても」

 決めつけるようなその言葉は。

「それは戦争の論理です」

 非難するように、ヒスイが言い返す。

「あなたは、戦いになると思っているのですか。昨夜の一件で、議会が軍を動かすとでも……」

「たとえ議会が黙っていたとしても、軍は勝手に動きますよ」

 議論を放り投げるような声で、ヤトが断言した。

「忘れたのですか? 是非はともかくとして、我々は現役の陸軍将校を手に掛けてしまったのです」

 その意味が理解できないほど、ヒスイも馬鹿ではない。

「話し合いの時期は過ぎ去った。いや、とうに過ぎていたとみるべきですね。自分が昨晩、どんな目に遭わされたのかをもうお忘れですか。貴女の望むやり方では、もうこの国は変えられない」

 何も言えないでいるヒスイに、彼はいつものような締まりのない笑みを向けると言った。

「議会は十中八九、軍を動かすでしょう。それ以外に物事を解決する方法を知らないからです。そして、ならば。僕らもまた、それに応じる手段をこれ以外に知らない」

 どうしようもなく、取り返しがつかないのだと言うように、口の端を吊り上げながら、ヤトが両腕を大きく広げる。

 その動きに応じるように、彼の背後にある屋敷から兵士の一団が姿を現した。

 小銃を肩に掛けて、歩調をとってやってきた彼らは、腕を広げたままのヤトの後ろに整列した。

「大尉殿。準備万端、整いました」

 兵士たちの先頭に立っていた大男、駒塚が耳打ちするようにヤトへ屈みこんで報告する。その彼もまた、完全軍装の出で立ちだった。

「うん」

 ヤトは当然のような態度でそれに応じた。

「例の件は?」

「抜かりなく」

「ご苦労、曹長。明日の朝には、帝都中が大騒ぎだろうな」

 駒塚の返答を聞いて、喉を低く鳴らしたヤトへ。

「七倉大尉、これ以上、何を企んでいるのですか」

 我を取り戻したように、ヒスイが訊いた。

「ああ。それは……」

 もったいぶるように駒塚と目配せをしたあとで、ヤトは悪戯を白状する子供のような笑みを彼女へ向けた。


「あなたは……」

 全てを聞き終えたヒスイは、絶句していた。

「あなたたちは、最初から、このつもりで……?」

 七倉ヤトと、その背後に並ぶ兵士たちに、信じられないものを見ているような目を向けながら彼女は喘いだ。

「女子供を含む非戦闘員については、山に設けた避難所へと退避してもらっています。織館さん、貴女も当分、そこで大人しくしていてもらいますよ」

 驚きと衝撃、そして焦燥で顔を青白くさせているヒスイなど意にも介さず、他人事のような口調でヤトが言う。

「そこまでして、戦いたいのですか……」

 呻くような彼女の言葉に。

「今さら、何を言っているのですか」

 ヤトが失笑のようなものを漏らした。

「自分が大陸でなんと呼ばれていたのか、ご存じでしょう?」

 問い返す彼の口元には、その渾名に相応しい狂気の笑みが浮かんでいた。

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