007
それから、たった一ヶ月。作戦は失敗し、帝国陸軍は歴史的な大敗を喫した。
私の下には、村雲大佐のぼろぼろになった軍帽と大外套だけが戻ってきた。
軍の戦線が崩壊し、撤退命令が下された時。第一教導連隊は可能な限り友軍の撤退を支援するために、最期まで最後衛で戦い抜いたのだと言う。彼らがおかげで、軍は辛うじて壊滅を免れたそうだ。
すっかり草臥れた大外套が、大佐たちの激戦を物語っていた。
不思議なことに、涙は出なかった。
喪失感もあったし、虚無感もあったけれど。
それ以上に、私にはやらなきゃいけないことがあったから。
それでもやっぱり心細くて、私はぼろぼろの大外套に袖を通した。
こうすれば、いつでも大佐が付いていてくれるような気がして。
少しして、連隊の建て直しに奔走していた私は、先の大規模攻勢で大敗を喫した責任を取って更迭された司令官に代わり、新しい司令官がやってくることを耳にした。
その名前を聞いた時、私がどれほど驚き、喜んだことか。
まさか、中将になっているなんて思わなかったけれど、私だって中佐になったと聞けば、彼はどんな顔をするだろうか。
そんな期待に胸を膨らませて。
けれど、待ち焦がれていたはずの再会は、ただただ悲しい現実を知るためだけのものになってしまった。
確か、あの時からだ。
あの人が私をサクヤと呼ばずに、木花と呼ぶようになったのは。




