006
「おわら、せる……?」
村雲大佐の言葉を、私は馬鹿みたいに反芻した。
だって。
だって、戦争が終わるなんて。戦争に終わりがあるなんて、知らなかったから。
「終わるんですか、戦争が?」
尋ねた私に、大佐は微笑みながら頷いた。
「そりゃあ、終わるさ。この戦争だって、何も人類の開闢以来ずっと続いてきたわけじゃない。始まりがあったのだから、終わりもある。人の営みに永遠はないんだから」
何かの一節を諳んじるように、村雲大佐はそう答えた。
「でも、それじゃあ、どうやって、終わらせるんでしょうか」
「それがまだ、分からない」
さらに聞き返した私に、大佐は困ったように頭を掻いた。
「だから、寝ても覚めても僕はそのことばかり考えているんだ。これほどまでに長く続いてしまった戦いをどう終わらせたものか。生半可なやり方じゃ駄目なのは分かっているんだけど、どうにもその方法が思いつかない」
けれど、と、彼は私に目を向けた。
「君ならば、或いは思いつくかもしれない。一昨日の件はともかく、正直に言って、君ほど優秀な将校には会ったことが無い。だから、力を貸してくれないかな、木花大尉」
そう言って、村雲大佐が頭を下げた。
「や、やめて下さい! そんな……!」
私は慌てて、寝台の上で正座をすると頭を下げ返した。
「わ、私こそ!」
よろしくお願いしますと言おうとしたところで、村雲大佐がすっと顔を上げた。
「違うんだ」
何かの痛みに耐えるような声で、彼は言った。
「お願いしたくて頭を下げたんじゃない。これは詫びなんだ……こんなことに、君のような女の子を巻き込んでしまったことへの。本当は、僕らの代でどうにか終わらせるべきだったんだから」
何処までも深い後悔に顔を染めながら、何処までも真剣な瞳で私を見る村雲大佐に。
「……終わらせましょう」
私は小さな声で答えた。脳裏に曹長の、今際の顔が過ぎった。これが、贖罪になるのなら。
息を吸い込んで、さっきよりも大きな声で私は言った。
「終わらせましょう、大佐。この戦争を、何としてでも」
それから。私は懸命に学んで、懸命に考えた。戦争を終わらせる方法について。
それは新鮮な毎日だった。
思えば、私の人生において何か目的をもって行動したのは、これが初めてだったと思う。
村雲大佐とは、戦争が終わった後のことについてもよく話した。
ある時は、戦争が終わったら何がしたいかという質問に、一日中寝て過ごしたいと答えた私を大佐は大声をあげて笑った。思いつく限りの贅沢を言ってみただけなのにと、頬を膨らませた私に、彼はまずはそこからだねと言って、もう一度笑った。
そんな第一教導連隊での日々は、唐突に終わりを迎えた。
補給の望みもない長距離行軍の末、敵の要衝を攻略せよという無茶な作戦に、連隊も参加することになったのだ。
停滞していた戦況をどうにか打破したいという、当時の大陸派遣軍司令官の希望が通ったらしい。派遣軍の総力を挙げて臨むべき戦いである、などと理由をつけて、第一教導連隊にも作戦参加が下命された。
当然、私はそんな無茶な命令に従うべきではないと村雲大佐に何度も具申した。
けれど、たとえどれほど馬鹿げていたとしても、命令には絶対服従が軍隊の鉄則だ。
「それに、もしもこの作戦が成功すれば。それはそれで、戦争終結に一歩近づくだろうしね」
そのもしもが、どれほど淡く、儚い期待であるのかも十分に分かった上で、そう笑った大佐に、私も覚悟を決めた。
未成年者の作戦参加を認めないという連隊長命令が下されたのは、その直後だった。
私の涙ながらの抗議は全て却下された。
そして。
暑い夏の、蒼穹の空を背景に。村雲大佐たち第一教導連隊は、私を置いて、望みのない戦場へと向けて出撃していった。
「後を頼んだよ。木花少佐」
最後に大佐からそう言われて、私にできたのはただ頷くことだけだった。




