005
目を覚ましたのは、見慣れた自室だった。
校舎の大きな窓からは暖かな木漏れ日が差し込んでいて、どこからか小鳥たちの囀りが響いてくる。いつも見ていたはずのそれが、なんだか酷く現実感のないものに思えて。
私は寝かされていた寝台の上で、ゆっくりと上半身を起こした。
「起きたね、木花大尉」
優しい声がした。
声のほうへ顔を向けると、村雲大佐がそこにいた。寝台の脇に置いた椅子に座って、どうやら本を読んでいたらしい。
たぶん、大佐は気絶した私が目を覚ますまで、ずっと傍についていてくれたのだろう。
「むらくも、たいさ……」
私は何がどうなっているのかも分かないまま、ぼんやりとした声で彼を呼んだ。
途端に、全てを思い出した。
「曹長は!?」
身を乗り出して、叫ぶように訊いた私へ村雲大佐は落ち着くようにと手振りで示した。
それから手にしていた本を近くにあった机の上に置くと、私へ向き直る。
「先日の戦い。目的であった友軍の救出は成功した。さらに、指揮官を失った敵は潰走し、我が軍が当初占領していた地域は完全に回復した。これは、君のお手柄だね。……第一教導連隊における損害は、戦死一名。負傷者は君を除いて、十六名」
穏やかな声で告げられたその数字に、私は言葉を失った。
戦死一名。
それは、今までの私にとって、ただの数字だった。
損害とは戦果を確認するための物差しでしかなく、敵の数が多ければ多いほど。こちらの数字が少なければ少ないほど。差し引きした数で、勝利の大きさを測る。
ただ、それだけのもの。
今までは。
けれど、今は。
目の前で絶命した曹長の顔を思い出して、私はもう一度込み上げてきた吐き気を堪えるように布団の端を握りしめた。
そんな私へ、村雲大佐が声をかける。
「ようやく、自分たちが何をしているのか理解できたようだね。大尉」
彼の言葉に、私は無言で頷いた。
「怖いだろう」
私は頷いた。
「やめたいと思うかい?」
頷く。
「……それでは、やめるかい?」
その質問に。私は首を横に振った。
たとえ、戦争の真実が何であったとしても。今さら、やめることも逃げることもできない。
私は軍人で、将校で、その為に育てられたのだから。
御国のために戦って、戦って、戦って……それで。
続く言葉が見つからなくて、私は途方に暮れたように窓の外へ目を向けた。営庭には、その時も訓練に励む兵士たちの掛け声が響いていた。
戦って、勝って、また戦う。戦争は続く。何時までも。どこまでも。きっと、これからもずっと。
それが、私の生まれた世界の日常だから。これはもう、どうしようもないことなのだ。
そんな私へ。
「それでは。この戦争を終わらせよう」
村雲大佐は、至極当然のことのようにそう言った。




