第十二話
「そういうサクヤは今、士官学校で教官をしているそうじゃないか」
「え? あ、うん」
聞き返すように言ったミツルへ、サクヤはなんで知っているんだろうと不思議に思いつつ頷いた。その隣で、先ほどから静かにお茶を啜っていたシュンが口を開く。
「それも、戦術学の担当だそうだな。随分と豪華な講義だ」
それにミツルたちが同意するように頷いている中で、サクヤはふと顔を翳らせた。
「戦争は終わったのに、また新しい将校を育てるなんてね」
「仕方がないさ」
自虐するように言った彼女へ、ソウジが慰めるように声を掛ける。
「大戦は終わったが、大陸では未だに大小の紛争が続いている。その火の粉がいつ何時、我が国に降りかかるとも分からん以上、軍の再建は国家の急務なのだ。何より、欧州や連邦も放ってはおけないし……」
と、そこまで言ったところで、ソウジは口を閉じた。この場でするような話ではないし、その続きを口にする必要もないと思ったからだった。十分な自衛手段を持たない国や集団がどのような末路を辿るのか。その幾つかを、彼らはその目で見て来たのだから。
「ま、百年兵を養うはただ一日、それを用いんがためである。だ」
「……誰の言葉だ?」
纏めるように言ったソウジへ、コウが首を捻った。
「大陸の、古い思想家の言葉だ」
ミツルが湯呑を置きながら、呆れたように教えた。
「へぇえ。さっすが、陸軍中将殿ともなれば、色々なことを良くご存じで」
足を投げ出すようにして、座椅子にもたれ掛かったコウがどうでも良さそうに言った。
「いや、士官学校で習うわよ、それ」
そこへ、コトネのぴしゃりとした声が飛んだ。
「シュン君は? さっき、お仕事が立て込んでいるって」
サクヤはお茶を一口啜ると、今度は隣にいるシュンの顔を見上げるようにして訊いた。それに彼は、分厚い眼鏡の奥にある細い瞳を宙へと彷徨わせながら、言い辛そうに答える。
「僕は、あー……参謀本部、第二部だ」
「情報部ぅ?」
シュンが現在の所属を口にするなり、コウが馬鹿にするように唸った。
「かー。相変わらず、陰気な仕事を。だから顔色が悪いんだな」
「古巣に戻ったわけか」
そのコウを無視して、ソウジが納得したような声を出す。
「まぁ、そうだな。もちろん、それ以上は詳しく言えないが」
そう言ったシュンに、ソウジはまぁそうだろうなと頷いた。参謀本部次長とはいえ、彼もそこで働く者全てを網羅しているわけでもない。特に情報部は秘密主義の塊で、彼ですら必要な時以外に関わることも少なく、内情は詳しく知らなかった。
「情報部だと、みんな正装をしているの?」
大きな式典でもない限り滅多に袖を通すことの無い、漆黒の陸軍正装を彼が着ているシュンへ、サクヤが尋ねた。
「いや……まぁ、そうだな」
「ふぅん。近衛みたいね」
言葉を濁しながら答えた彼へ、サクヤを挟んで座っているコトネが大して興味もなさそうに呟いていた。




