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「なにを」
「お分かりでしょう」
慄きに身を震わせるヒスイの眉間へ銃口を突きつけて、狛尻は言った。
「お父上と同じ場所へお連れして差し上げようと、そういうことですよ」
むしろ親切そうな響きのあるその声音が恐ろしくて、ヒスイの背筋に冷たいものが這いまわる。
「何故」
掠れた声が喉から漏れた。
まさか、ここまで。という驚愕は無論ある。
何故、ここまで。という怒りもある。
しかし、今はその先を考えることができない。自分に対して向けられた、確かな死の恐怖を前に、脳が思考を放棄している。逃げなければと分かっていても、身体が動いてくれない。
「悪く思わないでいただきたい」
怯えるヒスイに、狛尻は言い訳染みた言葉を口にした。
「小官はただ、帝主陛下と御国の忠良なる藩屏として、その義務と責任を果たそうとしているだけなのです。今の議会には解決すべき問題が山のようにあり、貴女によって引き起こされる無用の面倒事に付き合っているような時間はない。そもそも、今は国民全員が一致団結せねばならない時なのです。にも関わらず、その統制を乱そうとする狼藉者を排そうとするのは、忠臣として当然ではありませんか」
噛んで含めるように、彼女が死ぬ意味について説明する彼の顔には、もはや卑しさすら滲む笑みが張り付いている。
「無駄な抵抗はやめなさい」
ヒスイの瞳が背後にある扉を縋るように見つめていることに気が付いて、彼はせせら笑うように告げた。
「これも御国のためなのです」
まるで、それで全てが許されるというように。
いや。事実、許されてきたのだ。この国では。
ああ。何てこと。
唐突に、ヒスイは気付いてしまった。
この国はとっくの昔に、鉄火と暴力によって支配されていたのだ。
彼女の目の前で、狛尻の指が引き金にかかった。ゆっくりと力が込められてゆくのさえ、見てとれる距離。
お父様。
祈るように、ヒスイは両目をきつく瞑った。
私は――。
乾いた破裂音が夜の議事堂に響いたのは、その直後であった。




