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桜花舞う!!  作者: 高嶺の悪魔
第三章 秋(前) 決別
123/205

009

 控えめに扉の叩かれる音が響き、ヒスイは慌てて上体を起こした。

 どうやら、いつの間にか眠ってしまったらしい。部屋の中は真っ暗だった。

「あ、ど、どうぞ……」

 少し乱れていた髪を手櫛でさっと整えてから、ヒスイは扉の向こうへ呼びかけた。

「失礼します」

 男の声とともに扉が開き、廊下の灯りが室内に飛び込んだ。暗い部屋の中に、男の片手が差し込まれる。しばらく壁をまさぐり、やがて、ぱちりという音とともに室内灯が灯った。

 すっかり電気のない生活に慣れていたヒスイは、突然の明るさに目を瞬いた。

 そういえば、ここは帝都だったという当たり前のことを思い出す。

 やってきた男は、見張りの兵ではなく大尉の階級章をつけた人物だった。

「どうかなさいましたか? ……ええと」

狛尻こましりです」

 問いかけたヒスイに大尉が名乗った。

 それは額のやけに広い、自尊心の強そうな面立ちをした若者だった。

「あまりにも静かなので、気になったものですから」

 年頃はちょうど、七倉ヤトと同じくらいだろうと推察している彼女に狛尻は言った。

「すみません。いつの間にか、眠ってしまっていたみたいで」

 ヒスイは寝台から立ち上がりつつ答えた。室内に踏み込んだ狛尻の背後で、扉がかちゃりと音を立てて閉まる。そのまま、彼は部屋の中を探るように見回した。

「あの。大尉?」

 何の用かと尋ねようとしたところで、ヒスイのお腹が小さく鳴いた。

 女性として当然の恥じらいに頬を染めながら、そっと狛尻の様子を窺う。どうやら、彼はその音に気付いていないらしい。

 ほっと胸を撫でおろしたヒスイは、そういえば今は何時なのだろうと部屋を見回した。時計の類は置かれていないが、外を見れば分かるようにすっかり夜だ。朝、帝都についてから何も口にしていないことを思い出す。

「あの」

 彼女は躊躇いがちに口を開いた。

「その、食事は用意していただけるのでしょうか?」

「ああ。それならば、ご心配なく」

 それに狛尻が素気のない声を返す。

 ということは、用意してもらえるのだろうかと、ヒスイがほっと息を吐いたところで。

「貴女にはもう、必要ありませんから」

 彼の口から、そんな言葉が飛び出した。

「……それは、どういう意味でしょうか」

 その発言に不穏なものを感じ取り、ヒスイは警戒の表情を浮かべて聞き返した。

「分かりませんか」

 狛尻は薄い笑みを作ると、彼女に一歩近づいた。

「つまり。こういうことですよ」

 次の瞬間。彼は片手をヒスイに向けて伸ばした。

 その手には、抜き放たれた拳銃が握られていた。


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