008
清華院ホウショウが去った後、カヤが閉会を告げると、ヒスイは警備の兵に伴われて議場の外へ向かった。
その途中、末端の席に座る者たちからの視線に気付いた。それは彼女にとって見覚えのある顔ばかり。かつて、父キンセイの下で一時はこの国の政権を担っていた者たちだった。
彼らは一様に申し訳なさそうな、詫びるような目で彼女を見ている。
それにヒスイは微笑み返してみせた。お気になさらないで、と。唇が小さく動く。
陸軍によって制圧されてしまった今の議会で、彼らから援護を受けられないことは十分に承知している。
むしろ、その中でも彼らがどうにか末席に留まり続けてくれているだけで充分だった。
何より。自分には自分の立場と意見、そして戦い方があるように。彼らにも彼らが大切に思うものがある。それが分からずに助力を乞うほど、彼女は愚かになれなかった。
兵の案内でヒスイが通されたのは、議事堂の二階にある一室だった。
縦に細い間取りで、簡素な寝台と小さな事務机が置かれているだけの小さな部屋だ。
「急な報せがあるかもしれませんので、外出はお控えくださるよう言付かっています」
案内についた兵がそう告げて、扉を閉める。その言葉の意味を、ヒスイは誤解しなかった。
要するに、軟禁されてしまったわけだ。
両手を腰に当てながら、彼女はふんと息を吐いた。
さほどの動揺はない。むしろ、開き直りに近い心境だった。
元々、帝都に呼び出された時からこの程度のことは想定していた。悲観しても始まらない。
街に戻れるかどうかが心配だが、仮に戻れなくても、あとのことは信頼できる者たちに任せてある。議会も、そこまで強硬策を打っては来ないだろう。
そもそも、今回の呼び出しからして法的根拠が曖昧なのだから……明日は、その線から攻めてみようかしら。
などと考えながら、寝台に腰かける。そのまま、身を投げ出すように仰向けに転がった。ふと、部屋に唯一ある小さな窓へ目を向ける。どんよりとした曇り空が見えた。
大丈夫。
自分を慰めるように、ヒスイは心の中で呟いた。
この時。彼女はまだ、この国が法治国家であることを信じていた。




