第十一話
「みんなは今、何をしているの?」
かなり無理やりな話題の変え方だったが、小首を傾げてそう訊いたサクヤに、いち早く答えたのはミツルだった。
「俺は帝都守備隊の中隊長を任されているよ。第五中隊だ」
彼は穏やかな微笑みをサクヤに向けながら言った。
守備隊とは戦後、各地の戦場から引き揚げてきた陸軍の残存部隊を解体、再編して、帝国領内の主だった都市などを防衛するために編成された部隊のことである。帝都守備隊とは、その名の通り、帝都に置かれた守備隊のことだ。
「俺はそこで、中隊付訓練幕僚だ」
ミツルの肩に腕を回しながら、コウが会話に割り込んだ。
コウ君が幕僚なんて似合わないなぁと思ったが、先ほどの失敗から口には出さないサクヤだった。
「ソウジ……君が押し付けたんだろう?」
首に回された腕を鬱陶しそうに振り払いながら、ミツルが恨みがましい目でソウジを見た。
「なんのことだ?」
それに、彼はお茶を啜りながら飄々とした態度で応じる。
「惚けるなよ、帝都守備隊幕僚長」
にじり寄るように言ったミツルへ、ソウジは肩を竦めると言った。
「色々と“長”の付く役職を兼任していてね。たかが一大尉の処遇についてまで、一々憶えていないなぁ」
「参謀本部次長だろうが何だろうが、壊滅寸前の今の陸軍に、そうそう仕事があるもんか。実際、帝都守備隊幕僚長としての仕事の方が多いだろ、君」
図星を突かれたらしいソウジは、端正な面立ちを不機嫌そうに顰めた。
「壊滅寸前だからこそ、忙しいのだ」
彼は反論するように口を開いた。
「軍をどうやって再建したものかと四苦八苦しているのに、そこへきて面倒な問題児の世話までしていられるか。大体、その辺の奴の下にこいつを付けたら、何をしでかすか分かったもんじゃない。その点、君はこいつの扱いに慣れてるからな。被害は最小限に抑えられると思ったのだ」
「誰が問題児だ、誰が」
自分を指さして、こいつ呼ばわりするソウジにコウが言い返す。
「そもそも、俺がいつ問題を起こした」
腕を組んでふんぞり返る彼に、ミツルはむしろ憐れむような瞳を向けていた。
その脳裏には、戦時中、自分の下で第二中隊を率いていた榛名コウ大尉の起こした面倒ごとの数々が浮かんでは消えてゆく。捜索任務の最中に腹が減ったと言い出して、あろうことか堂々と飯を炊き始めたり。行軍の途中でたまたま、敵基地を発見したからと独断で強襲を仕掛けてみたり。しばらく大人しくしているように待機を命じておけば、こっそり出撃しているし。
どれも下手をすれば、一軍の趨勢すら決定しかねない危険な行動ばかりだった。それが大事に至らなかったのは、今にしても思えば奇跡だったとしか言いようがない。だと言うのに、本人にその自覚がないのはもはや呆れを通り越して憐れにも思えた。
「こいつと一緒で、よく生き残れたな。俺たち」
しみじみと呟いたミツルに、コウ以外の全員がしっかりと頷いていた。
「……ミツル君、その部隊のみんなは元気?」
話に一段落ついたところで、サクヤが遠慮がちにそう尋ねた。窺うような上目遣いで自分を見る彼女に、頬を緩めたミツルは頷いた。
「ああ。元気だよ」
その返答を聞いて、ほっとした様子のサクヤに彼は続けた。
「守備隊の駐屯してる相霞台練兵場はそう遠くないし、一度でもサクヤが顔を見せてくれればみんな喜ぶと思う」
そう言ったミツルに、サクヤは曖昧な笑みを浮かべながら頷いた。
「……うん、そうね」
戦後、帝国には七つの守備隊が置かれた。その中でも、首都を防衛する帝都守備隊は現在の帝国陸軍が保有する中で最大の戦力であった。
最大とは言っても、他の守備隊と比べて特に兵の数が多いというわけではない。担当している防衛区の広さを無視するのならば、北道守備隊の方が規模は遥かに大きい。
だが、他の守備隊と帝都守備隊には決定的に違うことが一つあった。
大戦を限界まで戦い抜いた帝国陸軍は、先ほどソウジたちの言っていたように瓦解寸前だった。その残存部隊を国土防衛のために寄せ集めたのが、各地の守備隊である。
しかし、帝都守備隊だけは違った。その基幹となっている人員は、終戦後も依然として戦力を保持し続けていた唯一の部隊、第587連隊からの引き抜きで構成されているのだ。
つまり。名は変わり、形は変われども。サクヤたちの率いた連隊は今もなお、存在し続けているのだった。
「まぁ、うちの連中は毎日、この馬鹿に走らされてばかりだけどな」
「兵隊は走るのが商売だろうが」
どことなく同情するような声を出したミツルの傍らで、傍らの訓練幕僚はふてぶてしく言い放った。




