029
ようやく式典の場から解放されたサクヤは、とぼとぼとした足取りで帰路についていた。
昼間、多くの人で賑わっていた通りも今はすっかり人気がなくなり、赤い陽光の残滓が寂しそうに街を照らしている。
サクヤの口から、今日何度目になるのかも分からない溜息が漏れた。
やっぱり。祝典なんて参加しても、良いことは一つもなかったと思った。一日中、よく知りもしない人からの質問にあたり障りのない言葉で答え、偉そうな人の長話をひたすら聞かされるだけ。その挙句、軍高官が民衆に向けた演説を行っている最中に突然、壇上へ呼び出されるなんて聞いていなかった。
穴があったら入りたいとは、ああいう時の心境を表すんだなぁと意味もなく考える。
もう一度、溜息。
とにかく疲れた。
今日はもう、早く帰って寝てしまおう。
疲労のせいか、酷く感傷的になっている思考を無理やりに打ち切って、サクヤが顔を上げた時だった。
「あら、サクヤ」
「え、コトネ?」
ふと顔を上げたその先に、コトネが立っていた。どういうわけか、軍の制服ではなくて、開拓民たちが着るような作業着に身を包んでいる。
そのことを疑問に思いながらも、サクヤはこの思わぬ出会いを素直に喜んだ。
「どうしたの、こんなところで?」
ぱたぱたと小走りで近寄ると、コトネに尋ねる。
「もしかして、コトネも式典に参加してたの?」
「まっさか。この格好を見れば分かるでしょ」
サクヤの質問に、コトネは手をひらひらとさせながら答えた。
「開拓計画の進捗について、報告に来ていたのよ。祝典に参加できるのなんてね、花形のアンタみたいのだけで、私のような裏方はいつも通りなの。その上、祝典の邪魔になるから制服は着てくるな、なんて言われて……まったく、私たちを何だと思っているのかしら」
拗ねたようにふんと鼻を鳴らした彼女へ、サクヤはそっかと頷いた。
「大変なのね」
「そうよー」
労うように言った彼女へ、コトネは伸びをしながら応じた。
「でも、本当に大変なのはこれから。もうすぐ秋が来るからね。開拓村はこれからが大忙し」
言いつつ、彼女ははぁっと大きく息を吐いた。肩が凝っているのか、腕をぐるぐると回している。それを見たサクヤの脳裏に、あることが閃いた。
「ね、ねぇ、コトネ、この後、まだ忙しい?」
何かをせがむような様子のサクヤに、コトネは首を傾げながら答えた。
「なぁに、いきなり? この後は村に戻るだけだから、別に忙しいって程でもないけれど」
「じゃあさ」
その返事を聞いて、サクヤは目を輝かせながら身を乗り出した。
「あのね、一緒にお風呂に行かない? この近くに、銭湯があるの」
「銭湯? ふーん……」
サクヤからの誘いに、コトネは人差し指を唇に当てながら空を見上げた。晩夏とは言え、まだ日が沈み切るには時間があった。




