025
泰原の説得に失敗した真辺は、失意のうちに参謀本部へと連行されていた。
帝都守備隊の中から臨時編成された憲兵隊の駆る馬車の中で、彼は育ちの良さそうな顔を死人じみた土気色に染めて黙り込んでいる。
全てが失敗に終わった今。彼の頭の中はどうやって処刑台から逃れようかという、ただそれだけで占められていた。そのせいで、彼は周囲に生じた異変に気付くのが一拍、遅れてしまった。
突然の銃声だった。馬の嘶き。続いて、何か重く柔らかいものが地面に落ちる音。
「なんだ……? どうしたんだ……?」
真辺が顔を上げた時、すでに彼の両脇を固める憲兵たちは腰を浮かしかけていた。緊張の面持ちで、小銃を握りなおす彼らを見て、真辺がさらなる不安に襲われた時だった。
突如、馬車の扉が乱暴に開け放たれた。兵たちが弾かれたように銃を構える。それよりも早く、二発の銃弾が車内に撃ち込まれ、憲兵たちの頭を打ち砕く。馬車の中が鮮血で染まった。
頭部から血と肉片を零しながら、兵たちの肉体がずるずると座席の下に沈んでゆく。
すべてが一瞬の出来事だった。
「な、なんだ、なんなんだ、何なんだよいったい……!?」
恐怖に駆られた真辺が喚き声を上げた。馬車の外に足音が響いた。それを聞きつけた彼は、反射的に足元に転がっている兵の死体を引き上げ、その陰に隠れた。
「――同志を売り、自らの保身を図り。果ては兵の死体を盾にしてまで生き延びようとするとは……。見下げ果てた根性ですね、真辺大尉」
聞こえたのは、男の声だった。
「お、お前は……」
怯えきっていた真辺の顔に、わずかな希望が灯る。
「助けに来てくれたのか」
死体を放り出して、彼は馬車から顔を突き出した。その眉間に、未だ硝煙の立ち昇る銃口が突きつけられる。
「え……」
愕然とした声が真辺の口から漏れた。
そこへ、心底からの侮蔑に満ちた声が掛けられた。
「何も分かっていないようだから、教えて差し上げよう。貴方は裏切り者だ。それも、最低の裏切り者だ」
「ま、待って……」
「古今、裏切り者に下される制裁はただ一つ」
真辺は乞うように腕を伸ばした。
自分に向けられている拳銃の引き金にかかった指がゆっくりと動くのを、見開かれた瞳が映す。
それが、彼がこの世で見た最後の光景であった。




