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桜花舞う!!  作者: 高嶺の悪魔
第二章 夏(後) 近衛叛乱
104/205

022

 帝国議会議事堂の本会議場へと向かった泰原は、扇形に並んだ議席の中心に置かれている議長席へと近づいた。

 そこには両手を拘束された初老の女性が俯きながら座っている。

「議長閣下」

 泰原は彼女の白く染まった頭頂部に、丁寧な声で呼びかけた。

「あら、泰原大尉。ようやく、私を殺す決断を?」

 面を上げた帝国議会議長、野椎カヤは全てを受け入れるような、穏やかな笑みを彼に向けて尋ねた。

「いいえ。違います」

 泰原は首を振って応じた。

「確かに、我々の計画では、貴女も暗殺の対象として名が挙がってはいましたが。今さら、貴女を殺害しようとは思っていません」

「それはなぜ?」

 やはり穏やかに、カヤは聞き返した。

「貴女はそもそも、陸軍派ではありませんから。確かに、帝国陸軍初の女性士官であり、現役の頃は軍養護施設院長を務めていた貴女は、最も多くの子供たちを戦場へ送り出す手伝いをしたとも言えますが……議員転向後はむしろ、復員してきた少年兵たちの自立支援を主張しておられましたね。一度は将官まで務めたことのある貴女に自由な発言をされては困る者たちが、貴女をその椅子に押し込めたのでしょうが……」

 そこまで行ったところで、泰原は口を閉じた。

 ここで彼女の政治的立場について論じたところで、今さら彼にとっては何の意味もないからだった。

「ともかく、貴女を殺さずにいて良かった。貴女の解放を条件に、部下たちの安全を約束させることができる」

 話を切り上げるように、彼はそう言った。

「こんな老いぼれに、それほどの価値があるかしらね」

 カヤは悟ったような笑みで応じた。

「無くては困ります」

 泰原の声は真面目だった。

「兵は僕の命令に従っただけです。つまり、全責任は僕にある。彼らに裁かれるべき罪はない」

「軍隊の基本ね」

 彼の言葉を肯定するように、カヤが静かに言った。

「そうです」

 泰原は頷くと、カヤの両手を縛っている縄を解いた。姿勢を正してから、彼女へ腰を折る。

「数多くの非礼、お許しください。自分は貴女に対して、一切の個人的な恨みを持っていません。ただ、自分は国民が、特に農村部にある者たちが、如何に悲惨な窮状に置かれているのかを、この国の指導者たちへ伝えたかっただけなのです」

 顔を上げて、彼らはさらに続けた。カヤは黙ってその言葉を聞いた。

「今の政府が推し進めている復興計画は、まずもって帝都、そして他の主要な大都市の復興を目指すものであって、地方は二の次です。帝都では水道や電気といった復興が進み、食料品や生活必需品が揃いつつあるにも関わらず、大戦末期、根こそぎ動員によって働き手を失ったままの地方の農村部での生活は質素をさらに下回っている。この格差を是正、いえ、たとえそれが出来ずとも、せめて一石を投じることができればと。それが今回、自分がこうした行動をとった理由であります。そのことだけは、どうか知っておいてください」

「立派ね、大尉」

 すべてを言い終え、再び腰を折った泰原へ、カヤは眩しいものを見るような眼差しを向けた。

「私の生涯は残り少ないかもしれませんが、ええ。そのことだけは覚えておきましょう」



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