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「泰原! 俺だ、真辺だ!」
守備隊の将兵たちに包囲された議事堂の前へと引き立てられた真辺は、憲兵に促されると、縛られている両手を窮屈そうに動かしながら大声を上げた。
「泰原! いるんだろ? 出てきてくれ! おい、お前ら、指揮官を呼んで来い!」
最後の言葉は、正面玄関で機関銃に付いている兵へ向けたものだった。
「これ以上、抵抗を続けても無益な犠牲を払うだけだぞ!」
その一言に、近衛兵たちの顔が不審そうに歪む。それでも真辺の叫びは続いた。
「いま降れば、悪いようにはしないと守備隊の指揮官は約束してくれた! 弁明の場も設けると! 今回は残念な結果に終わったが、我々が蹶起に至ったその想いだけでも陛下にお伝えできれば、それでいいじゃないか! お前の気持ちも、覚悟も、もう十分に……」
説得を続ける彼の姿を、ミツルは何処か呆れたような目で見ていた。近衛兵たちが彼に向けているものは、さらに白けている。
そこへ。
「泰原!」
それまで悲痛だった真辺の声が、希望を帯びたように上ずった。
見れば、議事堂から一人の近衛将校が数名の部下とともに姿を現していた。よれよれの軍服に身を包んだ、丸眼鏡を掛けた男だった。
「泰原! よかった、よく出てきてくれた……」
「真辺大尉」
真辺が何かを言い出す前に、泰原が静かな声を出した。
その左右では、彼の部下たちが油断のない目つきを周囲へと向けている。全周を包囲され、孤立していながら、今なお戦意を失っていない彼らを見て、真辺は一瞬、解く羨ましそうな顔を泰原へ向けた。
それはこの期に及んでなお、泰原が部下たちからの敬意と信頼を勝ち得ていることへの、羨望と嫉妬がない交ぜになった感情だった。真辺はつい先ほど、その全てを失っている。
彼はそれを飲み込むと、懇願するように口を開いた。
「そんなにも、部下から慕われているお前が、部下を道ずれにしようというのか? この蹶起で、お前が一番案じていたのは。大丈夫だから、誓って、お前と、お前の部下たちが手酷い扱いを受けないように、俺が陛下にお願い申し上げるから……」
どこまで本気なのか分からないその発言に、泰原の左右を囲む近衛兵たちが失笑のようなものを漏らしていた。
「ありがとう」
当の泰原は真辺へ、にこりと微笑みかけた。それに、真辺がほっとしたような顔になる。
しかし次の瞬間。
「けれど、僕は僕自身の意思を貫徹しようと思う」
同じ表情のまま、そう告げた泰原に真辺は固まった。
泰原はくるりと踵を返すと、再び議事堂の中へと消えていった。
「泰原ぁ!!」
その背中に、真辺が追いすがるように叫んだ。議事堂の正面玄関が、音を立てて閉まったのは直後であった。




