第74話 ヨリックが出て行く様子がない
三ヶ月ほどたって、エルフィンの里での生活も整って来た。
掃除や修理で家はほどほどに住めるようになった。
月の魔力を使い、タライの中に渦を作って洗濯をする技を開発したり、畑の土をひっくり返して耕したりして野菜を栽培していた。
単純な引力操作なので、アイデア次第で月魔法は応用が利いた。
森に居る魔物も手頃な岩を加速してぶつければ簡単に倒す事ができる。
アリスの世話もだんだんと慣れて来た。
村のおばさんに色々とノウハウを聞いて色々参考になった。
ヨリックの怪我も治ったが、奴は出ていく様子が無い。
世話になった恩を返す、などと言って大工仕事等を手伝ってくれる。
便利なのだが、正直流星号に乗ってどこでも行って欲しいと、ディアナは思った。
「そろそろ出て行きなさいよ」
「……あー、そのー、俺は居たら駄目か?」
「なんで? 騎士団に戻りなさいよ」
「騎士団に戻ったら、ここにアリス姫が居るって白状しないといけないじゃねえか……」
「動甲冑騎士団が深樹海に入ったら、道々の魔女がやってきて防衛してくれるわ。クランク師が来るわよ」
「……、それでリンデンの軍隊がどんどん死んで行くんだよ。そういうのは厭なんだ」
「この里にずっといるの?」
「ああ、アリス姫が大きくなったら、家来にして貰おうって、思ったな。姫がリンデンに帰るにしろ、帰らないにしろ、家来は要るだろ」
ディアナはため息を吐いた。
ヨリックの気持ちは解る。
戦友を死地に送るような情報を持ち帰りたくない、そして、自分も、上官の命令でここに攻め込んでクランク師やエリカ師に殺されるのは厭なのだろう。
「アリスが大きくなってから意見を聞きますか……」
「そうしてくれるか、ありがてえ。里の力仕事は全部やるからさ、頼むよ」
基本的に里の力仕事はディアナが月の力でやったほうが早くて簡単なのだが、そんな事は言えなかった。
ディアナは、魔法の力で古い寝藁を丸めてボールにして煙突に入れて上下させた。
煤が雪崩のように落ちてきて、咳き込んだ。
煤も力で固めて里の外に棄てた。
綺麗になった暖炉は暖かくて良い匂いがした。
「月の力でなんでもしちゃうと筋力がなくなりそうだわ」
「だあだあ」
産着のアリスがはいはいをして暖炉の暖かい所に移動した。
ヨリックは長椅子に座って、木っ端を削ってアリスのスプーンを作っていた。
なにげに木工が上手かった。
「早くアリス姫が大きくなるといいな」
「そうね、物心が付いたら色々な魔法が使えるようになるわね」
アリスはこの星の上に存在する魔法の全てを使えるそうだ。
であるなら、火の魔法でカマドに火をおこしたり、水の魔法で水瓶を満たしたりできるわけで、この里は相当便利になりそうだ。
「明日流星号に乗って狩りをしてくるよ、兎とか鶸とか取れるといいな」
「深樹林には魔物もいるから注意しなさいよね」
「ああ、そうだね」
ディアナとヨリックとアリスは血が繋がって無いけれど、家族のように日々を暮らした。
外の世界の情報は三日に一度くるエリカとの噂話だけの、深い井戸の底に住んでいるような生活が二年続いて、ディアナたちは里の生活に慣れた。
家は修理されて居心地が良くなり、アリスは二階の子供部屋で遊ぶようになった。
片言で喋り、動き回るようになった。
ディアナはエリカの箒に乗せて貰い、遠くの漁村まで行き、小ぶりな漁船を買ってエルフィンの里へと飛ばした。
アリスもヨリックも大喜びであった。
「もうすぐワルプルギスの夜市だからね」
「もう、そんな時期か」
「よるいち、よるいち、いくの?」
「ええ、行くわ、お母さんのサンディ姉さんにも会えるわよ」
「おかあしゃま、おかあしゃま」
エリカによると、サンディはクーニッツ伯爵領にいて、最近は大分良いらしい。
ただ、夜市にまで来るかどうかは解らないらしい。
「姉様も、健康になって、この里で暮らしたらいいのにね」
「おかあしゃまとししょーはちがう?」
「そうよ、私はアリスのおばちゃんだからね」
「おばちゃんおばちゃん」
アリスは二歳になって、色々な魔法を使えるようになった。
カマドの火入れや、お風呂の焚きだしなどはアリスの仕事だ。
「子供ってさあ、すぐ大きくなるのな」
「本当にあっという間ね」
リンデン側に、この里の事はばれてないようだ。
捜索のペガサスナイトがたまに上空を飛ぶぐらいだ。
里の姿はエルフィンの魔法で隠されて、見つからないようになっている。
ディアナはヨリックと手分けをして漁船を磨き上げ、居心地の良い船内を作り上げた。
アリスは興奮して漁船内をドタバタと駆け回った。
「ふね、ふねっ、おでかけ、おでかけ」
隠れ住んでいるので、アリスは里から出た事が無かった。
時々エルフィンと会話しているぐらいで、あまり他人との付き合いがあるとは言えない。
アリスに母親と会わせてあげたいのと、色々な魔女と知り合って欲しいと、ディアナは思っていた。
そして、初夏の日、ディアナと、アリスと、ヨリックと、流星号を乗せて、船はヒルトマンの街を目指し出発した。
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