第19話 魔女狩りが来る
ガラス工房『ガンドール』は週休一日制である。
中世の工場の場合、季節に一度に一週間の休みで他の日は休み無しに働くのが多いが、進歩的な工房『ガンドール』は日曜日がお休みである。
もう少し近代に入ると、土日休みの週休二日制だったりするが、まだまだ中世の話である。
さて、ターラーは初の休日なので、王都内をぶらぶら散歩である。
空は良く晴れて良い天気だ。
今日は下町まで行って買い物をして、お昼にアパートメントに帰ってゾーヤとランチの予定だ。
思わず鼻歌も出てしまうぐらいの上機嫌である。
ターラーの進路を黒づくめのニヤニヤした男が塞ぐ。
振り返ると後にも黒づくめの男だ。
カタギには見えない、ヤクザだ。
「なに?」
ヤクザ達はニヤニヤ笑って答えない。
ヤクザを割るようにして、ミリア師が現れた。
「ああ、そういう」
「『青』か何かしらないけど、あんたはやり過ぎよ、ガンドール工房から出てって」
「厭と言ったら?」
「魔女狩りにあんたを殺させるわ、諦めるのね、魔女狩りには魔法が効かないわ」
奧の方から、筋骨逞しくフルプレートの魔導鎧に身を固めた男が現れた。
背には大剣をしょっている。
「俺は魔女狩りのゲーアハルト、降参しろ、お前に勝ち目は……」
「ファイヤボー」
ターラーは杖を振り上げファイヤーボールを撃ちだした。
「って! 話を聞けよっ!」
ゲーアハルトは剣を抜きファイヤーボールを叩き斬った。
「どうだ、この魔剣ゴーボルトは魔法を……」
「ファイヤボー、ツイン」
ズドンズドンと二連のファイヤーボールが打ち込まれた。
ゲーアハルトは必死になって二連のファイヤーボールを打ち落とした。
「ちょ、ちょっと、姐さん、な、なんでファイヤーボールを人に向けてたたき込めるんだ、下手すりゃ死ぬぞ」
「そ、そうだそうだ、野蛮だぞ」
「え、私、最初から、人にファイヤーボールをぶっ放してたけど」
ヤクザには悪いが、『付け火のターラー』は元テロリストなのである。
最初から人を殺す目的で魔法を発射しているのだ。
ヤクザは青くなった。
都市魔女たちは、人に向けてファイヤーボールを撃つ度胸はなく、魔女狩りをけしかけられたらすぐに降参していた。
これは、なにか、違う魔女だ、と、そう底冷えするような思いが浮かんだ。
「ファイヤボー、トリクル」
「ちょ、ちょとまて、三つ?!」
ゲーアハルトは脂汗をかいて魔剣でファイヤーボールを打ち落とした。
息が上がっていた。
「ど、どうだっ! てめえっ!」
ターラーは杖を持ち替えた。
「ファイガドリング」
ドドドドドと無数の小さな火炎弾がゲーアハルトに向けて飛んだ。
ゲーアハルトは悲鳴をあげながら打ち落とすが、何割かは打ち落とし損ねて、抗魔力の高い甲冑に弾かれて周囲に跳弾した。
「ひ、卑怯、卑怯、な、なんだその魔法はっ!」
「ファイヤーガトリング、戦争に使われる魔法だよ」
「そ、それは禁止、それは禁止」
ゲーアハルトは涙目で訴えた。
ミリア師もヤクザも、あまりの事態に棒立ちになった。
まったく常識が通じない魔女っぽい怖い何かがそこにはいた。
「魔女狩りさん、大体解った、次で殺すから、厭なら降参しなさい」
「な、何言ってんだよう、おめえよう、俺は魔女狩りでよう……」
「ファイヤ」
ターラーの杖から吹き出したのはシンプルな青い炎だった。
「なんだ、こんなもん、お、お前の首をもらう……、き、斬れねえ?」
ゲーアハルトの魔剣の斬撃でも青い炎は斬れず、そのまま彼の姿を飲み込んだ。
「あんたは魔法を斬る事ができるけど、魔法の結果は斬れないんだよ、単純な炎でもね」
「ぎゃあああっ!!」
青い炎にまとわりつかれてゲーアハルトは絶叫を上げ、暴れ回った。
だが、炎は生きているようにまとわりつき、消えなかった。
「アツイ……、アツイ……」
ゲーアハルトは焼き尽くされて拳闘士みたいなポーズを取った燃えがらとなって煙を上げていた。
辺りには髪の毛を焼くような不快な匂いが立ちこめていた。
ミリア師とヤクザたちは目を丸くして惨劇を見ていた。
人を一人平然と焼き殺すような魔女は見た事が無かった。
ミリア師は一歩前に出た。
「な、なかなかやるわね、あんたをセンター時間のサブリーダーにして……」
ターラーは黙って杖を振り上げ、ミリア師の頭を殴った。
思いの他力が入っていたのか、ミリア師は仔猫のように道に倒れこんだ。
「うはあう……」
「今度間違えたら、お前も殺す」
「は、はいっ」
「手を付いて謝れ」
「は、はい、申し訳ありませんでした。お許しくださいお許しください」
ミリア師は泣きながら土下座をした。
「『黄』のサリー師にも同じ事をしたのね」
「はい、魔女狩りを使って恫喝したら、あいつはすぐ折れました。ヤクザの若い衆に犯させて工房から追放しました」
ターラーはヤクザたちを見た。
ヤクザ達は視線をそらした。
「じゃあ、まず、サリー師に謝罪だ、その前はいないのね」
「……、は、はい」
「いるの?!」
「あ、いえ自殺しましたので……」
「ちっ、遺族に賠償金だな」
ヤクザの兄貴がおずおずと前に出た。
「あ、あのあっしらはその」
「今回のけじめにお前達の家を燃やす。厭なら賠償金だ」
「そ、そんなあ……」
ターラーは涙目のミリアとヤクザ達を連れて、サリー師が現在働いている煉瓦工場へと向かった。
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