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魔女の道々  作者: 川獺右端
第四章 王都のガラス工房

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第19話 魔女狩りが来る

 ガラス工房『ガンドール』は週休一日制である。

 中世の工場の場合、季節に一度に一週間の休みで他の日は休み無しに働くのが多いが、進歩的な工房『ガンドール』は日曜日がお休みである。

 もう少し近代に入ると、土日休みの週休二日制だったりするが、まだまだ中世の話である。


 さて、ターラーは初の休日なので、王都内をぶらぶら散歩である。

 空は良く晴れて良い天気だ。

 今日は下町まで行って買い物をして、お昼にアパートメントに帰ってゾーヤとランチの予定だ。

 思わず鼻歌も出てしまうぐらいの上機嫌である。


 ターラーの進路を黒づくめのニヤニヤした男が塞ぐ。

 振り返ると後にも黒づくめの男だ。

 カタギには見えない、ヤクザだ。


「なに?」


 ヤクザ達はニヤニヤ笑って答えない。

 ヤクザを割るようにして、ミリア師が現れた。


「ああ、そういう」

「『青』か何かしらないけど、あんたはやり過ぎよ、ガンドール工房から出てって」

「厭と言ったら?」

「魔女狩りにあんたを殺させるわ、諦めるのね、魔女狩りには魔法が効かないわ」


 奧の方から、筋骨逞しくフルプレートの魔導鎧に身を固めた男が現れた。

 背には大剣をしょっている。


「俺は魔女狩りのゲーアハルト、降参しろ、お前に勝ち目は……」

「ファイヤボー」


 ターラーは杖を振り上げファイヤーボールを撃ちだした。


「って! 話を聞けよっ!」


 ゲーアハルトは剣を抜きファイヤーボールを叩き斬った。


「どうだ、この魔剣ゴーボルトは魔法を……」

「ファイヤボー、ツイン」


 ズドンズドンと二連のファイヤーボールが打ち込まれた。

 ゲーアハルトは必死になって二連のファイヤーボールを打ち落とした。


「ちょ、ちょっと、姐さん、な、なんでファイヤーボールを人に向けてたたき込めるんだ、下手すりゃ死ぬぞ」

「そ、そうだそうだ、野蛮だぞ」

「え、私、最初から、人にファイヤーボールをぶっ放してたけど」


 ヤクザには悪いが、『付け火のターラー』は元テロリストなのである。

 最初から人を殺す目的で魔法を発射しているのだ。


 ヤクザは青くなった。

 都市魔女たちは、人に向けてファイヤーボールを撃つ度胸はなく、魔女狩りをけしかけられたらすぐに降参していた。

 これは、なにか、違う魔女だ、と、そう底冷えするような思いが浮かんだ。


「ファイヤボー、トリクル」

「ちょ、ちょとまて、三つ?!」


 ゲーアハルトは脂汗をかいて魔剣でファイヤーボールを打ち落とした。

 息が上がっていた。


「ど、どうだっ! てめえっ!」


 ターラーは杖を持ち替えた。


「ファイガドリング」


 ドドドドドと無数の小さな火炎弾がゲーアハルトに向けて飛んだ。

 ゲーアハルトは悲鳴をあげながら打ち落とすが、何割かは打ち落とし損ねて、抗魔力の高い甲冑に弾かれて周囲に跳弾した。


「ひ、卑怯、卑怯、な、なんだその魔法はっ!」

「ファイヤーガトリング、戦争に使われる魔法だよ」

「そ、それは禁止、それは禁止」


 ゲーアハルトは涙目で訴えた。


 ミリア師もヤクザも、あまりの事態に棒立ちになった。

 まったく常識が通じない魔女っぽい怖い何かがそこにはいた。


「魔女狩りさん、大体解った、次で殺すから、厭なら降参しなさい」

「な、何言ってんだよう、おめえよう、俺は魔女狩りでよう……」

「ファイヤ」


 ターラーの杖から吹き出したのはシンプルな青い炎だった。


「なんだ、こんなもん、お、お前の首をもらう……、き、斬れねえ?」


 ゲーアハルトの魔剣の斬撃でも青い炎は斬れず、そのまま彼の姿を飲み込んだ。


「あんたは魔法を斬る事ができるけど、魔法の結果は斬れないんだよ、単純な炎でもね」

「ぎゃあああっ!!」


 青い炎にまとわりつかれてゲーアハルトは絶叫を上げ、暴れ回った。

 だが、炎は生きているようにまとわりつき、消えなかった。


「アツイ……、アツイ……」


 ゲーアハルトは焼き尽くされて拳闘士みたいなポーズを取った燃えがらとなって煙を上げていた。

 辺りには髪の毛を焼くような不快な匂いが立ちこめていた。


 ミリア師とヤクザたちは目を丸くして惨劇を見ていた。

 人を一人平然と焼き殺すような魔女は見た事が無かった。


 ミリア師は一歩前に出た。


「な、なかなかやるわね、あんたをセンター時間のサブリーダーにして……」


 ターラーは黙って杖を振り上げ、ミリア師の頭を殴った。

 思いの他力が入っていたのか、ミリア師は仔猫のように道に倒れこんだ。


「うはあう……」

「今度間違えたら、お前も殺す」

「は、はいっ」

「手を付いて謝れ」

「は、はい、申し訳ありませんでした。お許しくださいお許しください」


 ミリア師は泣きながら土下座をした。


「『黄』のサリー師にも同じ事をしたのね」

「はい、魔女狩りを使って恫喝したら、あいつはすぐ折れました。ヤクザの若い衆に犯させて工房から追放しました」


 ターラーはヤクザたちを見た。

 ヤクザ達は視線をそらした。


「じゃあ、まず、サリー師に謝罪だ、その前はいないのね」

「……、は、はい」

「いるの?!」

「あ、いえ自殺しましたので……」

「ちっ、遺族に賠償金だな」


 ヤクザの兄貴がおずおずと前に出た。


「あ、あのあっしらはその」

「今回のけじめにお前達の家を燃やす。厭なら賠償金だ」

「そ、そんなあ……」


 ターラーは涙目のミリアとヤクザ達を連れて、サリー師が現在働いている煉瓦工場へと向かった。

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― 新着の感想 ―
あーあ、こんなことちょくちょくやっておったんかい・・・。 これはミリア師のケジメ案件なのでは? 魔女同士の諍いまで裁く法はなさそうだけど、工房には損害与えているよね・・・。 サリーさん本人にはもちろ…
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