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魔女の道々  作者: 川獺右端
第四章 王都のガラス工房

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第17話 ガラス溶解炉のセンター時間のセンター

 ターラーはハンナと若旦那トーマスに溶解炉の説明をしてもらった。


「この穴に杖を突っ込んで魔力を注入します」

「ファイヤーボールとかの魔法じゃなくて良いの?」

「炉の中に魔法陣があって、勝手に魔力を温度に変換してくれるからね、魔力を打ち込むだけでいい」


 なんだか、ずいぶん簡単な仕事だなと、ターラーは思った。


「ちょっと試しにターラー師を交えて炉を動かしてみましょう」

「どこの穴に突っ込めばいいかな?」


 炉には杖を差し込む穴が七つほど開いていた。


「炉の真ん中がセンターと言ってもっとも効率的な穴です。せっかくですからセンターを使ってみますか?」

「ここかな、うん、入った」


 他の魔女たちも思い思いの場所に杖を差し込んだ。


「魔力を注入すると、中で回転する感覚がありますので、回転を一定にしてみてください」

「わかりましたー」


 とはいえ、最初からドカンと魔力を入れると怖いので、ほどほどの量の魔力を炉に注入した。


「お、おおお?」


 炉の中でぐるんと何かが回転する手触りがした。

 魔力を入れれば入れるほど回転は速く力強くなる。


「わ、わわっ、なんて注入速度なの」

「すごいわ、さすがは『青』」

「あははは、これ面白いね、どんどん入れていいかな」

「他の子の魔力の流れもありますので、あまり急がないでくださいね。あと、夕方三時から七時まで四時間、炉を回さないといけませんので、最初から飛ばすと倒れますよ」

「ああ、長丁場なのね、あ、これが別の魔女の魔力、ああ、四本あるね」

「さすがは『青』だ、覚えが早い」

「魔力を入れるだけだから、魔法よりも簡単ですよ」

「す、凄いです、ターラー師」


 ターラーは調子に乗ってゴウンゴウンと炉内で魔力を回転させた。

 他四人の魔女の魔力の流れも掴むと、良い塩梅の回転数が解ってきた。


 バーンとドアを開けて、髭もじゃのオヤジが駆け込んできた。


「うらーっ!! どうした、できんぼどもっ! 今日は炉の温度が高いじゃねえか! 心を入れ替えやがったか、がははっ!」

「ボストンさん、新しい魔女さんが入ってくれたんですよ」

「新人かあ、五人揃ったら温度は上がるが、上がりすぎじゃねえか、ガハハ」

「ボストン、今日入ったターラー師だ、色は『青』だ」

「うおお、マジかよ、『青』なんて超上級魔女は戦争に行くもんじゃねえのか」

「行ってましたよ、師匠が次は工場だって連れてきてくれまして」

「わあ、ターラーさん、戦場に居たの、いいなあっ」

「うお、ゾーヤ師のお弟子さんかあ、そりゃあすげえよなあ。こりゃあ、夜の部も炉の温度が上がっていいやな」

「炉の温度は高い方が良いんですか?」

「ああ、珪石が早く溶けるし、カラーガラスも良い色になるからね」

「俺はボストンだ、レンズとか作ってるぜ、よろしくな、ターラー師」

「はい、よろしくお願いします」


 ボストンさんは豪快だが、からっとした良い人のようだな、とターラーは思った。


「炉の温度はまだ上がるかい?」

「ええ、まだ大分余裕がありますよ」

「すげえ、若旦那、こりゃあ、最高温度更新出来るんじゃねえか?」

「そうだねえ」


 トーマスは顔を上げて炉の温度計を見た。

 メーターの端の方に金で出来た線があり、最高到達温度と書いてあった。


「メロディ師の立てた記録は塗り替えられるかもしれないな」

「メロディ、メロディ」


 どこかで聞いた名前だなと、ターラーは思い、そして思いだした。


「大婆様じゃあ無いですか」

「そうだよ、先代の頃に来てくれたんだよ」


 メロディ師は最長老の魔女として夜市の開催を宣言する上に、火の組合の長であった。


「こいつはターラー師をセンターにしてセンター時間組を再編した方がよくねえか?」

「そうしたいのだが、ミリア師が良い顔をしなくてね」

「またミリアか、あいつは根性がババだからなあ。同じ『黄』のサリーをイジメて追い出したしよう」

「ごほん、ボストン、それはあまり」

「お、おお、すまねえな若旦那」


 なかなかミリア師というのは厄介な人っぽいな、とターラーは思った。


「それでは、ターラー師、明日の午後三時からハンナ班に入ってくれ」

「はい、わかりました」

「がんばりましょうね、ターラー師」


 ハンナ師は穏やかでなかなか良い人のようだな、とターラーは思った。


 魔導炉はここからパイプで熱量を隣の工場二つに伝えて、そこでガラスの素材を溶かしたり、吹きガラス製法で膨らませたりしていた。

 ターラーはボストンに連れられてガラス工房の見学をした。


 工場は三交代制で、午前五時から八時までの早時間、午前九時から午後二時までのセンター時間、午後三時から七時までの遅時間があった。


 やはりセンター時間には腕利きの職人さんが仕事をするので高い温度が必要なのだった。


 ターラーは明日からの出勤を約束して、ゾーヤと一緒にアパートに帰った。


「ターラーは遅番かえ、大変だな」

「師匠はセンター時間ですか」

「私は九時から五時ぐらいだあね、切り子細工班で後輩の指導もあるでな」

「炉と切り子細工は違うんですねえ」

「そりゃあ、まあ、違う魔法だからな」


 ゾーヤとターラーは並んで歩く。

 途中市場に行って、鶏と野菜とパンを買った。

 王都は物価が高いから、自炊しないとやっていけないのである。

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