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盗賊少女に転生した俺の使命は勇者と魔王に×××なの!  作者: halsan
エンジョイ デーモンズライフ編
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希望の海岸

 数日後、エリスたちのもとに工房ギルドから嬉しい知らせが入った。

 それは「西の漁村第三次開発工事終了のお知らせ」。

「エリス、私はレストランとリゾートホテルのチェックがありますから先に参りますね」

「あ、ちょっと待ってよフラウ、ボクも親方に給排水のチェックを頼まれているんだ。一緒に行くよ」

「待つにゃ、私もとーちゃんのところに行くにゃ!」

 ということで、フラウ、クレア、キャティと各々の竜はやしきを飛び出してしまった。残されたのはエリスにレーヴェ。そしてレーヴェの姉であるビゾンとグリレの2人。

 このところメベットは朝から自由の遊歩道フリーダムプロムナードの広場で、街や観光客の子供たちと遊んでいる。何と言っても子供に大人気の機械化竜カオスドラゴンかーくんが一緒な上に、かーくんはメベットのしもべ。メベットにとっても楽しくないはずがない。また、機械化竜の存在が街の治安に一役買っているので、大人たちも何も言わず、微笑ましそうに眺めている。さらに言えば、観光客にとっては安心安全な無料の託児所のようなものである。

 

 一方のエリスだが、ここ数日表情が冴えない。勇者の魔宴サバト潰しは数度行われたが、それ以降はぱたりと止んでいる。その理由は魔宴自体の開催がなくなったから。それはそうである。今のスカイキャッスルでの魔宴開催は言葉の通り「自殺行為」なのだから。

 それ以降、マルスフィールド公からの連絡も「王の動きなし」というもの。一方の魔王も、相変わらずマルゲリータさんのところに定期的に通い、ベルルナルはリルラッシュとトランスハッピーでレーヴェと遊んでいる。なお、魔族であるマルコシアには事前に「魔王と副官がお忍びで遊びに来るが、出来る限り知らん顔をしているように。できれば隠れてしまいなさい」と指示してある。

 案の定エリスの予想通り、魔王もベルルナルもマルコシアに何の興味も示さなかった。大企業の社長と社長筆頭秘書がいちいち清掃アルバイトの顔を覚えているかという無情の世界である。

 あまりに何もなさすぎる。それがエリスに引っ掛かっている。

「お嬢、姉さまたちにも言ったが、考えてもどうにもならないのではないか?」

「お黙り! この考えなしが。考えても仕方ないことを考えるのではなく、ありうることを予測し出来る限り対策を講じておくのは必要なことなの!」

 エリスの叱責にレーヴェは小さくなってしまう。

 エリスは考える。自分が王を自由にできるとして、何をするか。自分の持つ情報を相手が持っているとして何を仕掛けるか。

「覚悟は決めておいた方がいいわね」

 エリスは軽くため息をつくと、一転して笑顔を浮かべ、レーヴェたちを西の漁村に誘う。

「レーヴェ、お姉さま方、そろそろ準備もできたでしょうから、私たちも西に向かいましょう」


 しばらくの後、エリスたち5人のギルドマスターとビゾン、グリレ、メベットを連れ、大地竜らーちんバスで西の漁村に向かった。

 なめらかな乗り心地の大地竜バスの上で、エリスは盗賊ギルドマスターのバルティス、冒険者ギルドマスターのテセウス、商人ギルドマスターのマリア、工房ギルドマスターのフリント、そして新加入である魔術師ギルドマスターのイゼリナに、スカイキャッスルのこのところの動きについてざっくりと説明をする。

 まずはマリアが眉をひそめる。

「どう考えても、王にとりつく悪魔にとっては、ワーランは目の上のたんこぶね」

 テセウスも腕を組んで続ける。

「竜戦乙女だけならともかく、最近は勇者もワーランを定宿としているしな。何を引き寄せてくるかわからん」

 バルティスがため息をつく。

「俺が悪魔の立場ならば、何らかの方法でワーランに粉をかけてみるな」

 フリントが鼻で笑う。

「粉かけくらいなら、その都度わしらで追っ払えばいい。お嬢ちゃんたちの手を煩わせることもないだろうさ」

 それにイゼリナが笑いを重ねた。

「フリントは相変わらずね。でも、市民に何かあっては大変ですから、戦える者には心構えだけでもさせておきましょう」 

 エリスはマスターたちには黙っているが、実は魔王と副官もワーランに入り浸り。これがどちらに転ぶかエリスには読めない。でも、この場でどM魔王の話などをしても混乱するばかりだろうとエリスは判断し、黙っておく。

 と、そうこうしているうちに一行は西の漁村に到着した。

 

「ワーランの街並みを見て期待はしていたけど、それ以上だわ!」

 漁村の光景を見て、まず第一声を上げたのは、数年ぶりにウィズダムから戻ってきたイゼリナだった。 

「エリスの言う『滞在型』というのには、ワシも最初は半信半疑じゃったが、これなら長期滞在したくなるのう」

 続けて声を上げたのは、街の造りを隅々まで理解しているフリント。 

 すると、正面からクレアと村長のギャティス、副村長のセルキスが皆を迎えにやってきた。

「これはこれは評議会の皆さん、わざわざ恐縮だぎゃ。早速街を案内させてもらうぎゃ」

 ギャティスが村の皆を代表してマスターたちにあいさつをし、続けて街の案内に進む。

 街は大きく3つのブロックに分けられている。

 1つ目は右手に広がるショッピングエリア。ここにはレストランと数々の市場を兼ねた店舗が軒を連ねる。こちらでは特産の海産物を中心とした食品や、海豹あざらし獣人特製の民芸品や加工品を購入することができる。その先は獣人たちの住宅街と分譲される別荘街が広がる。

 2つ目は正面に広がる白い砂浜を利用した日光浴&海水浴エリア。ここではビーチチェアや各種飲み物、子供たちが海辺で遊べる様々なおもちゃなどのレンタルと販売を行っている。

 3つ目は左手の岩礁地帯から、手前の岩場を利用したリゾートエリア。こちらはリゾートホテルと温泉が用意され、長期滞在ができるようになっている。フラウの工夫で、ショッピングエリアでの食事はこの漁村ならではの名物料理が提供され、リゾートエリアではワーランで通常提供されている食事が用意されている。なので、長期滞在しても、食事について飽きが来ることはない。


 エリスはこの村で三段階の計画をたてていた。

 第一弾は「魚市場」を整備し、ギャティスたちが無価値だと思っていたものに価値があることを彼らに教え込むこと。

 第二弾は「温泉」と「レストラン」を整備し、ギャティスたちに、娯楽に価値があることを教え込むこと。

 第三弾は「リゾート施設」を整備し、モノの価値と娯楽の価値を知ったギャティスたちに、お客さまをもてなす心を教え込むこと。

 当然「おもてなし」は有料である。そしてエリスのもくろみ通り、極貧の村で育った者たちも、生活に余裕が出てきたことにより、徐々に心にも余裕を持ち、笑顔を見せるようになり、よそ者を笑顔で迎える余裕を持った。これならば、ここに今後長期滞在するであろう気難しい年寄り貴族やら、金持ちの隠居やら、小うるさいオバサマたちのお相手も何とかこなせるであろう。

 そう、エリスのもう一つの目的は、「ワーランの繁華街でお金を落とす連中を長期滞在させる施設」の建設だった。気難しい年寄り貴族や金持ちの隠居や小うるさいオバサマたちは、普段はここでのんびりと小金を落とし、時々ワーランに出かけては、刺激的な各施設で大きなお金を落とす。そして気落ちしてここに戻り、癒された後に再びワーランに挑戦する。

 エリスは村のあちこちで元気に働く獣人たちの姿を見て「これでさらにがっぽがっぽだわ」と、一人ほくそ笑んだ。

 

「それじゃ、村の名前を公開しなきゃね」

 エリスの言葉にギャティスたちは頷き、どこからか大きな看板を抱えてきた。

「これが我らの名づけた、新しい村の名前だぎゃ、よろしくだぎゃ」

 看板には大きく「ようこそ! 『希望の海岸(ホープズコースト)』へ」と書かれていた。


 翌日から希望の海岸(ホープズコースト)は本格的に営業を開始した。

 今日はフェルディナンド先公が海岸にやってきたので、ビゾン、グリレ姉妹とメベットは先公と行動を共にしている。

 実はフェルディナンド先公のアドバイスにより、マルスフィールドとウィートグレイスの貴族や豪商たちには事前に長期滞在型リゾートや、別荘地販売の案内がなされており、既にいくつかの予約が入っている。また、ワーランの市民でも、子供に商売を譲った年配者たちが分譲施設を購入し、そこで隠居を決め込むつもりの者が何人かいるらしい。なぜなら希望の海岸は、ワーランとの間を冒険者ギルドが定期的に馬車を運行するとともに、手紙も受け付けてくれているので、親子ともに安心な場所だから。

 集まる客層が年配者中心なこともあり、希望の海岸は非常にゆったりとした雰囲気を醸し出す。

「調子はいかが、ギャティスさん、セルキスさん」

 エリスの笑顔に2人も笑顔で答える。

「お客さんが上品な人ばかりでこっちが面くらったぎゃ」

「我らの細工を喜んで買ってもらえるのはありがたい」

 希望の海岸は希望に包まれた。

 

 エリスたちは久しぶりに5人と5柱でゆったりとした時間を過ごした。

 5人は各々が思うような姿勢で海岸に座り、日没とともに彩りを変える景色を楽しむ。

 海岸の先は徐々にオレンジ色に染まっていく。

「そっか、西の海岸はサンセットビーチでもあるのね」

「美しい光景だな」

「見惚れてしまいますわ」

「あの色になる仕組みはね……」

「黙るにゃ」

 時間が止まったような、幸せなひととき。


 が、それはまもなく引き裂かれることになる。   

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