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盗賊少女に転生した俺の使命は勇者と魔王に×××なの!  作者: halsan
エンジョイ デーモンズライフ編
155/186

一皮むけました

 マルスフィールド公が各都市をアレス・イゼリナ夫妻作の「遠吠えのぬいぐるみ」でネットワーク化させるという試みは、幸運にもまだ王家には報告されていなかった。現在のネットワークは、スカイキャッスルのチャーフィー卿からマルスフィールド公、マルスフィールド公からワーランのマリア議長、マリア議長からウィートグレイスのレオパルド公。最後にマルスフィールド公からアレス・イゼリナ夫妻。この4本のみが稼働している。その他に公となっているのは、レーヴェとメベットのホットライン。なお、エリスが複写してこしらえたワーランの宝石箱ジュエルボックスオブワーラン各々間で連絡を取りあう人形については当然秘密にしてある。


 スカイキャッスルの王令がマルスフィールドに届くのは、早くても1日半後、そしてマルスフィールドからワーラン、ウィズダム、セラミクスの各都市に王令が届くのは更に2日は要する。なのでエリスたちとマリア議長は表向き、ワーランに王令が届くまでは知らないふりをする必要があった。ただし、当然のことながら極秘事項としてマリアから盗賊ギルドマスターバルティス、冒険者ギルドマスターテセウス、工房ギルドマスターフリントには報告される。


 一旦ワーランに戻ったエリスたちは、レーヴェの長姉ビゾンとその娘メベット、次姉グリレをワーランの自宅に匿うことにした。

 一方、チャーフィー卿の指示に含まれる真意を即座に理解したスチュアート卿は、さも何もなかったような表情で部下とともに馬車でスカイキャッスルに帰っていった。帰宅の行程は全6日間となる。

 王令がマルスフィールドに届くのは1日半後、そこからマルスフィールド公が出発の準備をするのは常識ならば丸1日。そこから出発し、スカイキャッスルに到着するのは更に3日後。合計5日半。エリスたちは竜戦乙女ドラゴニックワルキュリアだけであれば、四半刻ほどでスカイキャッスルに到着できる。なので5日間で、エリスたちは出来うる限りの準備を行うこととなる。

 ビゾンとメベットを連れ、来客用の館に待機していたグリレに引き合わせると、エリスたちは3人にエリスたちの館、トイレ、浴場への入口などを改めて案内し、エリス邸別館を、さも自分たちの家のように利用するように提案した。

「甘えてしまってもいいのですか?」

「お姉さま、嬉しいです」

「ありがたい申し出ですが、そのご真意は?」

 3人の疑問にエリスは答える。

「お三方が悠々自適(ゆうゆうじてき)とされていることが重要なのです。お三方は避難してきたのではない。ワーランで休暇を楽しんでいるのだと周りに思わせるのです。それがお二人の旦那さまたちへのスカイキャッスルでの活動に対してのサポートになります」

 ビゾンとグリレはまじまじとエリスの表情を見つめた。

 この8歳の少女の思考に驚き、少女の指示の的確さに驚き、そしてそのふてぶてしい態度に驚く。

 2人は金髪の少女が4人と5柱を従えている理由がわかった気がした。

「そうさせていただきますね、エリスお嬢さま」

「わかった、エリスお姉さま」

「ありがとうございます。エリスお嬢さま」

 3人は納得し、どうせならワーランを本気で楽しんでやろうと前向きに考える。


 と、そこで大地竜らーちんが素っ頓狂な声を上げた。

「あ、ちょっとけるぞ! エリスちん、元の姿に戻るからちょっと西の丘に付き合ってくれ!」

「この忙しい時に何なのらーちん!」

「エリスちんたちが見たがっていたものだ、とりあえず早く元の姿に戻るぞ」

 何だろうと訝しがりながらエリスたちはらーちんの言うとおり西の丘に向かった。すると我慢できないようにらーちんが巨大化し元の姿に戻る。

「エリスちん、ちょっと左の脇の下あたりを見てくれるか?」

 何なのよと思いながらも、エリスはらーちんの左前脚脇を覗きこむ。と、そこに10ビート四方くらいの淡く黄金に輝く半透明のものが浮き出ていた。

「それ脱皮。どうせなら完全なのがほしいだろ。エリスちん、ちょっと剥がしてくれ」

 大地竜に言われるがまま、エリスがぺりっと剥がした板にわっと集まる4人と4柱。

 特に4柱の竜が、これは珍しいものを見たとばかりに各々の乙女に語りかけた。

「このタイミングでこいつを入手できたのは凄いと思うよレーヴェちゃん」

「これが幻と言われるダークミスリルですよフラウりん」

「しっかし、魔流を使えんとただのアホみたいに固くてきれいな板でっせ、キャティにゃん」

「あ、俺魔流の使い方を思い出したかも、クレアたん」

 ……。

 最後の混沌竜ぴーたん発言に他の全員が目を見開いた。

 ……。

「えーっと、もしかして、これ、加工できるようになるのかしら」と、エリスがらーちんから剥がしたばかりの半透明の金属を両手で抱えながら努めて冷静にぴーたんに尋ねた。するとぴーたんは大地竜へラブリーサイズに戻るように声を掛けてから、5人と4柱を前にごそごそと説明しだす。

「よくよく考えたら、俺って魔子の塊なんだよね」

 混沌竜の言葉に頷く竜たちと訳がわからない5人。

「で、大地竜らーちんの脱皮後金属『ダークミスリル』は、魔子の流れすなわち魔流を通すことによって一定時間加工できるようになるのさ」

 何を当たり前のことを言っているのだという竜たちと、それは知っているとドヤ顔の5人。 

「でさ、俺、右手から左手に魔子を流すことができるんだよ。これってわかる?」

「あー! お前だったのか! 俺の鱗で武器や鎧を作った犯人は!」

 混沌竜ぴーたんの言葉に大地竜らーちんが怒りの声を上げる。それはそうだ。大地竜を傷つけることができるものはダークミスリルのみ。しかしダークミスリルは通常では加工不可能。しかしここの娘たちはエリスのスティレット、レーヴェのカタナブレード、フラウのハルバード、キャティに至っては更に何らかの神術が施されたと思われる勇者を引き裂くもの(ブレイブリッパー)と大盤振る舞いの装備なのだ。

「まあ細かいことはいいじゃんらーちん、そんでこのダークミスリルなんだけどね、俺にこんなアイデアがあるんだ」

「なんじゃい、クレアに魔法のステッキでも作るんかい」

「バカたれ竜は黙っとけ」 

「ちょっと表に出んかい」

 ごいーん。

 エリスとフラウのアイコンタクトで一旦おとなしくさせられた氷雪竜と混沌竜。混沌竜は頭をさすりながら言葉を続けた。

「らーちん、すーちゃん、ふぇーりん、あーにゃん、お前らもメベットの様子に気づいただろ?」

 頷く竜たちと、いまいち状況がわからない5人。

「だから、このダークミスリルをさ……」

 混沌竜の説明に目を輝かせる5人。特にクレアがやる気満々になった。竜たちも納得した模様。

「面白いわぴーたん。じゃ、クレアとぴーたんは工房ギルドに5日間こもってくれる?」

「お安いご用だよエリス!」

「当然さエリス。クレアたん、大仕事だよ!」

 ということで、この場は一旦解散となった。


 ここはスカイキャッスルの盗賊ギルド。

「やはりそうでしたか」

 ギースの言葉にスカイキャッスル盗賊ギルドマスターは忌々しい表情で頷いた。 

「気づいた時には手遅れだった。既にスカイキャッスルの闇に盗賊ギルドの統制は取れておらぬ」

「で、ピーチ、ダムズ、クリフ、そして夜馬竜とやらの情報はどの程度まで入手されているのですか?」

「お手上げだよ。怪しいのはわかっている。が、尻尾を掴ませない。あのピーチとか言う竜戦乙女ドラゴニックワルキュリアを名乗る女、さすが元酒場の歌姫なだけあって、耳心地のいい言葉を上手に紡ぐのだ。さらに王は、王と広報官の間に奴らを入れてしまった。正直盗賊ギルドとしてはお手上げだ」

「ならば王令に従うと?」

「そう判断した貴族たちも多い。が、闇を知る俺たちこそ、王令のヤバさがわかるだろう。そして少しでも冷静になれば、あの王令が王と王家に何のメリットもないばかりか、王そのものを滅亡に歩ませるものだと気づく。ここまでだ、しばらく盗賊ギルドは面従腹背めんじゅうふくはいで行く。お前も無茶はするなよ」

「わかりました。が、今の話を聞いた勇者グレイがどう動くかは判断できません」

「ああ、あの愚鈍な力持ちにそれ程の期待はしていない。が、できうるならば魔宴サバトの敵対者となってほしいな」

 マスターの言葉を背に聞き、ギースは盗賊ギルドを後にした。

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