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すまん暇だったんだ

 勇者グレイと盗賊ギースは悩んでいた。

 王家からの勅命は「竜を探せ」「資格を持つ乙女を探せ」の2つ。

 竜は見つかったが逃げられた。資格を持つ乙女については、そもそも候補者の条件がわからない。

 一番良い方法はワーランに出向いて、竜もしくは竜と契約した本人から話を聞くこと。しかしこれは一度ギースが大地竜と暴風竜を相手にして失敗している。他の竜と話をするためにはそれなりの人脈が必要だろう。それに2人ともワーランに三馬鹿を連れていきたくない。なぜなら2人にとって、とっても大事なスポットがあそこにはあるから。

「なあギース、いいアイデアはないか?」

「そんなことを言われてもなあ。三馬鹿共は妙なところで鼻が利くからな」

 悩む2人。

「お、そうだ! これならいけるか!」

「どうしたギース」

 ギースのアイデアは、先ほどマルスフィールド公に出された使いと合流し、公とともにワーランに向かうこと。そして公から三馬鹿に公の護衛を命じてもらえばよい。そうすればグレイとギースは自由に動けるし、公ならばワーラン評議会議長を通じて竜とその乙女を紹介していただくことも可能だろう。

 「よし、ギース、それで行こう!」

 グレイの了解を受け、ギースはダムズ、ピーチ、クリフの三馬鹿に出発の指示を出す。このところ小遣い銭程度でちまちまと遊んでいた3人は、久しぶりに豪遊ができると喜んで旅の準備を始めた。

 こうして勇者一行は一旦マルスフィールド公への使者と合流し、先行してリープシティの魔法で城砦都市に飛んだ。

 

 ここはワーランの街。

 大規模な第二期工事もほぼ目途が立ち、交わる町(クロスタウン)百合の庭園(リリーズガーデン)の郊外に建設された集合住宅へと、続々と住民が引っ越してきた。合わせてクロスタウンには観光施設に加え、日用品を扱う店も工房ギルド直営で営業を開始した。ちなみに集合住宅はエリスファイナンスの所有だが、賃貸管理は商人ギルドが窓口となって行うので、エリスたちはほとんど手を煩わせられることはない。まさに濡れ手に粟の殿様経営状態。

 今回の集合住宅における目玉は、共同の風呂とトイレ。これは百合の庭園で採用された方式を簡易化したもの。住民たちの使用料は原則無料だが、使用者は集合住宅の管理組合に加盟しなければならない。そして持ち回りで風呂、トイレ、上下水道の清掃を行う。これに同意できないものは入居お断り、清掃当番をさぼったものは契約解除。ちなみに商人ギルドに1000リル支払えば、清掃代行を手配してもらえるというサービス付き。

 こうした好条件のため、マサカツら移住組に加え、これまで親元から職場に通っていたゲームアシスタントの娘たちなども、集合住宅に引っ越してきた。

 一方市中のホテル建設も順調に進み、観光客も徐々に増えている。すでに商人ギルドでは西の漁村から魚介類を調達するルートを開発しており、レストランのメニューも充実させているとのこと。特にガチホモ蘇民屋で魚介類の需要が高い。

 そのような中で、エリスは退屈していた。というのは、マリアからしばらくは街にいなさいと強く釘を刺されたから。なぜなら、数日中に間違いなく王都もしくは城砦都市から竜と竜戦乙女についての再調査が来ることがわかりきっていたから。

 空を飛べるレーヴェとすーちゃん、フラウとふぇーりんは適当に空中散歩を楽しんでおり、クレアもぴーたんの飛行練習に付き合っている。キャティとあーにゃんはライブハウスにこもりっきり。はっきり言って暇なのはエリスだけ。

「らーちん、お茶でも飲みに行こうか」

「そうだなエリスちん」

 ということで、エリスはらーちんを小脇に抱え、いつものごとく宝石箱のティールームに向かう。


 さて、こちらはそんなシリアスな事情は基本どうでもいい、考えなしの碧の麗人(レディブルーグリーン)とお調子者の暴風竜ストームドラゴンコンビ。

「すーちゃん、気持ちいいな」

「僕もだよ、レーヴェちゃん」

 気持ちよく空を舞う碧チーム。単純な同士シンプルに意識がつながっている分、乙女と竜との意思の疎通は速い。レーヴェとすーちゃんは様々な飛び方を繰り返しながら、実戦を想定し、互いに勝手な装備の提案をしつつ飛行する。

 そうしているうち、乙女と竜はいつの間にか、かなり北上していた。そしてそこでレーヴェが逃げるような速度で駆ける馬車と、それを守るように囲む騎馬たちを見つけた。

 一方すーちゃんはその後方に悪魔どもの存在を感じる。

 さすがというか、ここで考えなしの乙女とお調子者の竜が見事にリンクする。

「すーちゃん、助太刀するぞ」

「了解!」

 こうして彼女と彼女の竜は急降下し、悪魔どもに向かう。

究極解放アルティメットリリースはエリスに禁止されてるぞ、すーちゃん」

「なら、これはどうだい?」

 すーちゃんの返事と共に、レーヴェの意識に術式が追加された。それは息吹解放ブレスリリース

「すーちゃん、息吹解放ブレスリリースを使用してみるぞ!」

「わかったレーヴェちゃん! ここは一発、派手にいってみよう! その後のフォローは頼むよ!」

 レーヴェは息吹解放の術式を解放する。それと同時に暴風竜ストームドラゴンはその口を開き、後方の悪魔たちに向け、爆音を轟かせる。

それは高電圧の息吹(ハイボルテージブレス)いかずちが直線を描く。

 暴風竜のハイボルテージブレスにより、後方の悪魔どもは電撃で滅び、命をつないだ悪魔たちも電撃によるショックにより、全身麻痺の状態となる。

「レーヴェちゃん、馬車近くの細かい連中はボクには手が出せない! お願い!」

 暴風竜の意識が伝わるか伝わらないかのタイミングで、レーヴェは暴風竜の背から身を離す。

 当然落下する身体。しかし彼女に恐怖はない。

 そして、それを証明するかのように、彼女はふわりと地面に舞い降りた。

 同時に引き抜くダークミスリルのカタナ。

 馬車にまとい付く悪魔どもは、彼女の前に赤い霧のように散るしかなかった。

「馬上の騎士さまたちよ! 後方の悪魔に止めを!」

 レーヴェの声に我を取り戻した護衛の騎士たちが、後方で麻痺している悪魔どもの征伐に向かう。

同時に暴風竜が再びレーヴェのもとに戻る。

「レーヴェちゃん、もう大丈夫そうだよ」

「すーちゃん、あまり派手に暴れても目立つから、ここは場を離れよう」

そしてすーちゃんにまたがるレーヴェ。

 ところがその姿は、馬車の中の女性2人にばっちり目撃されてしまっていた。

 幼い娘は両手を祈るように握りしめ「ああ、竜騎士さま」とかしずく。

 そしてもう片方の娘というには年齢の高い女性が馬車から身体を乗り出す。

「あなた! レーヴェではありませんか! こちらに顔を向けてくださいまし!」

 ここで尻に火が付いたレーヴェは、慌ててすーちゃんに高高度に上がるように指示を出し、ワーランに戻るように伝える。

「どしたの、レーヴェちゃん」

「まずい、ばれたかも」

 その会話だけを残し、乙女と暴風竜はワーランへと戻っていった。


 こちらはレーヴェと暴風竜すーちゃんが好き放題暴れているとは全く知らないエリスと大地竜らーちん

 いつものように宝石箱のティールームに行くと、そこには深刻な顔をしたアイフルさん。そしてその向かいには、ブティックご主人のプラムさん。

 2人が比較的空いているお店のデッキで何かを話している。その様子は、アイフルさんに何かの愚痴をこぼしているプラムさんのよう。

「エリス、とりあえず茶をもらおう」

 らーちんの声にエリスは一旦女性たちの観察をやめ、らーちんのお茶と自分のセットを頼んで、らーちんお気に入りのいつもの席に向かう。

「はいかしこまりました、すぐにお持ちしますね」

 いつもの高貴な笑顔で一旦席を立ち、店内に戻るアイフル。

「はあ」

 ため息をつくプラムさんが気になって、エリスは彼女に声を掛ける。

「何かあったんですか? プラムさん」

「いえ、大したことではありませんわ、エリスお嬢さま」

 そういう風に言われてしまうと逆に気になってしまう、ここのところ退屈なエリス-エージ。

「お力になれることでしたら?」

……。

 エリスの声にも無言のプラム。

 そこにアイフルがらーちん用のお茶とエリスのセットを運んできた。

 らーちんはいつもの様にお茶の香りで日光浴開始。

 そしてアイフルは再びプラムの席に座る。

「アイフルさん、私じゃプラムさんの力になれないかしら」と、エリスが調子をこく。

……。

「プラム、エリスお嬢さまに相談してみたら?」

……。

「そうね、アイフル」

意を決したプラムは、自身と自身を取り巻く悩みをエリスに持ちかけた。


 さて、こちらはご主人様の隠れ家マスターズハイダウェイ

 魔王と連れ立ってワーランにやってきたベルルナルさん。黒髪に陶器のような白い肌。妖艶な切れ長の瞳と、色を感じさせない薄い唇で吸い込まれるような微笑みを浮かべ、受付の前に立つ。そしていつもの台詞セリフ

「両替をお願いいたしますね」

 ところが今日の受付嬢は、これまでとは反応が異なった。

 受付嬢は美しいドレスに包まれたベルルナル嬢の豊かな胸を忌々しそうに一瞥した後、彼女と目を合わせないで事務的に告げる。

「女性お一人でのご入場はお断りしております」

「え?」

「もう一度申し上げます。女性お一人でのご入場はお断りしております」

 これには動揺してしまったベルルナルさん。男性の姿だと碧の麗人に相手にされないし、女性の姿だと店に入れないときたもんだ。

 ベルルナルさんは彼女なりに真剣に考え、受付嬢に質問する。

「私が実は男だったらいかがでしょう」

「マサカツくん、お客様のお帰りです」

 受付嬢の冷たいコールとともに、彼女の背後から現れる用心棒バウンサー

 こうしてベルルナルさんは、とっても丁寧に店から追っ払われたのであった。


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