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おひとよし鳳凰竜

 勇者たちが早馬で陶芸都市セラミクスを早朝に出発してから数刻後、そろそろ昼食かというときに、ギースは東の方向に黒い点を発見した。

「なにか近づいてくるぞ!」

 ギースの警告に従い、勇者一行は馬を止め、近くの岩陰に身を隠す。

「グレイ、あそこだ!」

 ギースが指差す先では、黒い点が黒い影に、そして黒い鳥の形を取り始めた。それは高速でこちらに向かってくる。

「ダムズ、ピーチ、クリフは馬共と隠れろ! ギース、一つ前の岩陰まで移動して様子を見るぞ! 最悪は迎撃だ!」

 勇者グレイが出した指示に従い、岩陰に身を潜めるダムズたちと、グレイの眼や耳となるために共に前進するギース。

 影はどんどん巨大化し、その色も黒から真紅へと変えていく。勇者と盗賊は目を細めてその姿を目で追う。

 鳥は勇者たちの目前まで迫ると、速度を落とし、勇者の前に着地した。その姿は竜と鳥の中間を思わせる。頭は明らかに竜。しかし身体はしなやかな鳥のもの。翼も同様。しかし翼の先に鉤爪のようなものも見える。脚もまさしく鳥そのもの。そしてそれは全身が真紅に包まれていた。

 勇者と盗賊は岩陰から様子を見る。勇者は盗賊をかばうように、盗賊は全身全霊で目の前のバケモノから情報を得ようと五感を働かせ。

 すると突如彼らの意識に声が響いた。

「ねえ君ら、勇者だよね? 間違ってたらごめんね」

 どう返答したらよいかとグレイとギースが相談を始めようとしたところで、ダムズが大声で返答してしまった。

「おう、俺らはそこの勇者とパーティーを組んでいるものだ!」

「あの馬鹿野郎!」と、グレイとギースは声を合わせるも、しかたがないので引き続き様子を見ることにする。

 すると再び彼らの意識に声が飛び込んだ。

「ああやっぱりそうか。手前の岩陰に隠れているお兄さんなんか、明らかにバケモノだもんね。あたしが君たちのところに来た理由は1つ。あたしは魔王とは組みしないから、あなた方もあたしを放っておいてねとお願いに来たの」

 その申し出を聞き、慌てて真紅の鳥の前に飛び出すグレイ。

「もしかして君も竜なのか?」

「そうだよ、それがどうかした?」

「なぜそんな申し出を?」

「魔王が動き出したでしょ? あたしは魔王にもあなたにも協力したくないの。お願い、あたしを中立にさせて」

 意外な申し出に怯むグレイ。が、そこでギースがグレイの耳を引っ張り、王の命令を遂行するように怒鳴る。

「すまん、それはできない。それより頼む! 守護竜として我々と契約してくれ!」

「守護竜って何よ?」

竜戦乙女ドラゴニックワルキュリアと契約して、王都スカイキャッスルを守護して欲しいのだ!」

 今度は真紅の竜が驚く番。なぜ彼らは竜戦乙女ドラゴニックワルキュリアの存在を知っている?

「勇者よ、竜戦乙女の話をどこで聞いた?」

「西のワーランという都市だ。既に大地竜が守護竜として君臨している」

 これには真紅の竜が重ねて驚いた。まさか竜戦乙女の資格者がいたとは。そして自然竜の中でも頭が硬くて名が通っている大地竜と契約するものが現れるとは。

「勇者よ、もしそれが本当なら、あたしの前に有資格者を連れてきてよ」

 真紅の竜の申し出に、後ろの岩陰から一歩前に出るピーチ。

「真紅の竜よ。私があなたと契約します」

 真紅の竜はピーチを一目見て鼻を鳴らした。

「ふん。最近の勇者は嘘をつくのね。その腐りかけの人間のどこに資格があるのよ」

 そして馬鹿馬鹿しいとばかりに勇者に再度目を向け、真紅の竜は改めて勇者に伝える。

「あたしはあなたたちを攻撃しないし、魔王に敵対することもない。それでいいわよね」

「それでは困る。ぜひ守護竜になってくれ!」

 すると後ろからダムズが叫んだ。

「グレイよ、とりあえずそいつを押さえつけちまえ!」

 ここでもベースが農夫の短絡的な思考がグレイに出てしまった。まずは竜が逃げないようにその足を両腕で掴む。

「待ってくれ! せめて試しに契約の儀式を行ってみてくれ!」

「何馬鹿なこと言ってるの? そんなにホイホイ契約できるわけないじゃない!」

 さすがにムカついた竜はその場から立ち去ろうとする。が、それを引き留めようとするグレイは、竜の足を掴み、引き戻す。

「待ってくれ!」

 ところがその引き戻しが見事に竜が飛び立とうとする動きのカウンターとなり、竜は半回転するように地面に叩きつけられてしまった。突然のことに混乱する竜。そこに駆け寄るピーチ。彼女は盗賊ギースが仕入れてきた情報の通り、竜の前で宣言を行う。

「お前の名前はゴージャスピーチさまずドラゴンよ」

 そして契約のくちづけ。

「やめろー! やめてくれー!」

 真紅の竜が絶叫するも、ピーチはお構いなしに竜にくちづけをする。

そして……。


 おえぇぇぇぇぇぇぇぇー……。


 真紅の竜はその口から生命エネルギー(エクトプラズム)を吐き出し、そのまま目を回して気絶してしまった。

 ……。

「ピーチ、お前の意識に、この竜の意識は刻み込まれたか?」

「いや、何もないよ」

 ギースの問いに不満そうに答えるピーチ。これは誰が見ても契約失敗。

 ……。

「なあギース。お前の『竜は熟女好き』って情報、間違っていたんじゃないか?」

 グレイはギースを問い正す。そう言われてみると、アイフルさんが大好きすぎて、自分の情報が狂ってしまったかもしれないと思い当たる節もあるギース。

「やはり乙女か……」

「とにかく、この竜が気絶している間に、陶芸都市から乙女を引っ張ってきて契約させましょうよ!」

 ギースのため息に、金目のものを失いたくないクリフが急かした。

「そうだな。ここで竜を束縛し、とにかく陶芸都市からそれなりの乙女に来てもらおう。まずは領主に相談か」

 勇者パーティは、竜を勇者が持つ魔法のロープで固縛し、動けなくする。そしてグレイとギース、ダメ元で商人ギルドのつても考慮し、クリフも一旦陶芸都市に戻る。

ダムズとピーチが見張りとしてここに残ることにした。

「よし、兎にも角にも竜の確保が最優先だ」

 不満そうなピーチたちを残し、グレイたちは陶芸都市に一旦早馬で戻った。


 エリスたちはすーちゃんからの竜発見の連絡を受け、遠目から勇者と真紅の竜のやりとりを眺めていた。

 そこでの会話はわからなかったが、真紅の竜が生命エネルギー(エクトプラズム)を吐き出したところで、大地竜、暴風竜、氷雪竜の3匹が思いっきり真紅の竜に同情を示した。

「あれはキツイな」

「ぼくなら鼻からだね」

「わいなら死んでしまったかもしれん」

 すると、勇者と盗賊ともう1人が踵を返し、都市に戻っていく。残ったのは乱暴者と自称歌姫。

「ねえエリス、2人ならエリスの睡眠と、ぼくのスリープでなんとかなるよ」

「そうねクレア、邪魔者2人を眠らせてから、私達もあの竜と交渉してみましょう」

 クレアの提案をエリスは受け入れ、全員で竜に近づく。そしてエリスはダムズに睡眠を解放。クレアはピーチにスリープを唱える。その場で崩れ落ちる2人。これをエリソン達が岩場に引きずっていく。

「酷いことをしますね」

 フラウは気を失った竜を撫でながら、その身に絡む魔法のロープに憤慨している。

「さて、どうやって起こしたものかしら」

「わいにまかしたらんかい!」

 そこに進み出たのはキャティス。彼は真紅の竜の喉元に移動すると、羽毛を掻き分け始めた。そしてあるものを見つけると、おもむろにパンチを加えた。

「うりゃ! 逆鱗アッパー!」

「びゃー!」

 ものすごい悲鳴とともに目を覚ます真紅の竜。こうして、エリスたちと鳳凰竜フェニックスドラゴンは出会った。

 身動きがとれない鳳凰竜の前にエリスたちが立つ。

「ねえ、さっき勇者たちと何を話していたの? それでなんであなたがこんなひどい目に遭っているの?」

 目の前の少女の優しさと、彼女から伝わる独特のやばそうな雰囲気に負け、鳳凰竜は勇者とのやりとりを彼女たちに説明した。

 エリスは重ねて問う。

「あなたをそんな目に遭わせた勇者に、まだ不可侵を求めるつもり?」

 答えられない鳳凰竜。

「なら、魔王の手先となって、この大陸で暴れるつもり?」

 これにも答えられない鳳凰竜。

「それなら、私達と、勇者と魔王をからかいに行かない?」

 突然の申し出に驚く鳳凰竜。すると、鳳凰竜の目の前に、新たに女性2人と男性?3人が姿を現した。

 そして男性?3人が突然光りだす。

「見よ! 俺のラブリースタイルを!」

「これがぼくのキュートスタイルだ!」

「わいのプリティスタイルこそ至高や!」

 鳳凰竜の前で、リセットボディを唱え、元の姿に戻る3柱の竜。そして彼らを代表して大地竜のらーちんが鳳凰竜を誘う。

「どうだ鳳凰竜、俺たちと一緒にしばらく遊ばないか?」

「あたしには竜戦乙女がいないよ」

「私では不足ですか?」

 鳳凰竜の前に立つのはフラウ。

 鳳凰竜は鼻を鳴らす。そして思い出す。彼女がまず自分に同情してくれたことを。

「あたしと契約しちゃうと、男との恋愛禁止になっちゃうけど、いいの?」

「構いませんわ」

 鳳凰竜は紅髪クリムゾン淑女ビューティを見つめる。そして目をつむる。

「名前と、くちづけをお願い……」

「あなたの名前はふぇーりん……」

 そしてフラウは鳳凰竜にくちづけをした。意識がつながる鳳凰竜ふぇーりんとフラウ。

「契約出来たわね、ならばここからとっととずらかりましょう!」

 エリスはフラウに体長変化許可パーミッションチェンジサイズをふぇーりんに唱えるように指示する。身体が縮んだふぇーりんは、魔法縄の呪縛から解かれ、自由となった。するとふぇーりんはそのまま逃げるようにフラウの肩に乗り、彼女の髪の中に隠れてしまった。

「よし、このまま魔導都市まで一気に戻るわよ!」

 エリスの指示に従い、それぞれは準備を始め、半刻後には彼女たちはその場から立ち去ってしまった。


 さらに数刻後。いびきをかいているダムズとピーチの前で途方に暮れるグレイたちの姿がそこにあった。



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