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8話:参加資格3

 勉学で資質ありと認められるには、学業成績が必要だ。

 そのためにやることと言えば、そう勉強会だろう。


「なぁ、ローレンは俺たちにひたすら復習させて何してんの?」


 エドガーが明らかに飽きた様子で聞いてきた。

 隣のユリウスも小休止とでも思ったのか、手を止めて息を吐く。


「お前らに復習をさせてるのは、何が得意で何が苦手かを見るためだ。そして俺がしてるのは、魔物討伐に向かう場所の情報収集」


 俺は簡単な国内の地図を手に答えた。

 本当に簡単で、前世の観光ガイドの簡素化した地図のほうがまだ詳しいくらいだ。

 主な街道、街、山、川が書かれてるんだが、無駄に凝った絵を並べる形で示されてるからわかりにくい。


 これ、地図って言うよりイラストでしかないんじゃないか?

 街の規模どんだけだよ。

 街道の距離どうなってんだ。

 あるはずの小さな山や川は全省略ですか、そうですか。

 情報収集をしつつ、突っ込みはやまない。


「へぇ、俺地図って初めて見た。こんななんだね」


 ユリウスにいたっては地図さえ知らないそうだ。

 移動しない農民からすれば、そもそも地図って単語知ってるだけまだましか?


「ほら、わからないところあるなら質問してもいいが、今は手と頭を動かせ。それ終わらせないと次に行けないんだ」


 俺はエドガーとユリウスを急かして、手元の役に立たなさそうな地図に目を戻す。


 現実で考えると、この世界がゲームだなんて馬鹿げた話だ。

 だが、ゲームと無関係ではないこの世界の要素は、嫌でも目に付く。

 こんな地図でもゲームマップとの共通項を見つけることができた。

 うろ覚えの俺でも、クエストが起こる場所はなんとなく把握してたお蔭だ。


「一日の距離は日中が行動範囲で、昼過ぎには宿泊の準備だから…………」


 俺の活動範囲は狭い。

 領地から王都の屋敷くらいしか大きく移動しないし、王都の中も隅から隅まで知ってるなんてことは言えない。

 その上で自分の知る移動感覚を基準に、マス目の描かれた羊皮紙に王都と領地の方角を確認して、丸の中に王都と領地って言葉を書き込む。

 二つの丸を繋ぐのは、一日の移動距離を想定した小さめの丸を連ねた。


 うん、余計にゲームマップみたいになったな。

 けど大まかな距離感はこれで基準ができた。

 全体を見ながら、後はゲームマップでクエストアイコンがあった辺りを想定する。


「こっちが、森。こっちは、川。で、この辺りになんか屋敷があって」

「あ、その屋敷って近くに墓地がある? 動く死体の魔物がいるって話だよな」


 エドガーがまた問題を解かずに俺がやってることに気を逸らす。

 けどその情報はゲームと同じだ。

 って言うことは、やっぱりクエストが起こる場所が実際にあるらしい。


 思いついて、俺はユリウスに声をかける。


「ユリウスの村って、王都からどの方角に何日くらい?」


 聞いて書き込むのは、そこもまたクエストがあるからだ。

 勇者の弟の墓を作ったらできる、墓石のアイコンなんだけどな。


「討伐ってそんな何日も移動してやるの?」

「いや、そういうわけでもないんだが。仕入れた情報整理してるだけだから」


 本当のこというわけにもいかず、俺はユリウスの質問をはぐらかす。

 その上でさらに聞いたのは、魔物の出現場所と種類。

 そこから思い出せるクエストで戦った魔物の組み合わせを考える。


 そんなことをするのは、一番手近な魔物出現ポイントが、先日行った林だから。

 そこじゃ色々と物足りない。

 何せ旨い素材も落ちない、チュートリアル以外で世話になることのないクエストなんだ。


「どうせなら、倒した魔物の素材で武器作れないかと思って。記念に」

「魔物で、武器を作るって、どうやって?」


 俺がそれらしく考えた言い訳は流された。

 ユリウス、そう言えばゲームでも知らない設定で、聖女からチュートリアル受けてたな。


「特別な薬剤で加工した金属に、魔法の炎を合わせて、魔物の素材を刃に溶かし込むんだ。魔物の特性や魔法が宿る特殊な武器や防具になる」


 エドガーが言う内容は、ゲームも同じ。

 薬剤とか炎は知らなかったけど、普通に選んで必要な素材と金を渡せば作ってくれる。


 ゲームでは武器防具一式を作ってもらえた。

 そうして装備を変えることで、炎を放つ剣や、雷を纏う槍を持つ装備する。

 言うなれば、お着替え形式で装備を変えるゲームだった。

 強さはあれど、属性相性なんて設定なかったから好きな服着せて冒険って形だ。


「よし、ユリウスが興味あるなら店見に行こう。うちと提携してる鍛冶屋あるから」

「そう思うなら手を動かせ。採点と傾向の悦明は明日に回してやるから」


 俺が譲歩すると、ユリウスがやる気になった。

 それを見てエドガーも、さすがに平民に後れを取れないと思ったのか無言になる。


 で、放課後俺たちは、王都の街に繰り出した。

 同時に、討伐に必要な物資の下見も行う。


「うちの騎士団から大まかに必要なものは聞いて来てるから、これを参考に回ろう」

「うちの騎士団魔物討伐ほぼしないから、そこら辺は商会に聞いてみるか」


 エドガーも自分で確認をするという。

 その上で俺たちは、魔物討伐に向かうにあたって必要な食料、水、薪の値段と量を実際に見た。

 それらを運ぶ馬や馬車、必要な人員の雇用の金額なども確かめる。

 そうして歩き回って金額をメモして行くと、ユリウスが大きく息を吐いた。


「討伐って、こんなに大変なんだね」

「まだ準備のための確認しかしてないがな」


 俺が言うとエドガーも笑う。


「多分他の生徒なら、面倒がって家頼るな。けどうちもローレンの家も、自分のことは自分でやれって感じだから」

「普通に俺たちの性格だろ? 誰かに命令するより自分でやったほうが早いと思ってる」

「二人はけっこうせっかちなのかな?」


 雑談しながら鍛冶屋も回る。

 エドガーの顔と名前で実際に作ってるところも見れた。

 当たり前だけど、武器が防具とセットじゃないことに感動してしまう。

 こういうところはゲームとは違う現実だな。


「武器だけでも売ってますが、魔物を使ってその特性が出ると、使い手にも影響します。それを防ぐために同じ素材を使った防具も一緒にあつらえることを勧めてますよ」


 しかしゲームの設定も、一応の理屈はあったらしい。

 防具とセットなのは、炎を放つ剣なら火傷防止とかの効果が必要だからだそうだ。


「さて、さすがに歩き回ったし、商会のほうに寄って行けよ。茶と菓子くらい出す」


 エドガーに誘われて、足を休めるため、エドガーの実家が営むケントニス商会へ向かった。

 案内されるのは、店とは別の脇の出入り口。

 するとさらに裏から何やら人の気配がある。


 覗いてみれば、防塵マントや武器を身に着けた一団は、揃いの薄青い布を巻いていた。


「傭兵か」

「あぁ、王都外からの商品の運搬の護衛だろう」


 エドガーが応じると、ユリウスが目を輝かせる。


「わぁ、強そう」


 聞こえたらしい傭兵の気のいい一部が、力こぶを作って見せてきた。

 こっちは学生服着てるから、お坊ちゃん扱いなんだろう。


 そんなこと思いつつ、傭兵たちを見て、俺は目を疑った。

 傭兵たちの中に、銀色の長髪に薄青いバンダナを巻いた人物がいたからだ。


「そんなに腕太くないけど、ローレンが見てるあの人が、一番強そうだよね」

「あぁ、前にも見たことある。ロイエっていう傭兵隊の隊長だな」


 ユリウスとエドガーの声が耳を抜け、俺はもっと違うことが頭を巡る。

 見るからにクールキャラっぽいロイエは、現実で見ると近寄りがたいくらいに強面の気配があるな、なんてことが。


 ただ俺が一番強く思うのは、なんでここにいるのかってことだ。

 だってロイエはゲームにも出てくる傭兵のキャラクター。

 そして登場はゲームの最初のほうとは言え、仲間になるのは中盤というキャラクターだった。

 いや、今はどうしてなんてことも後回しで、やらなきゃいけないことがある。


「なぁ、ここまで問題なく護衛できたってことは、魔物の対処もできるわけだよな?」

「あぁ、そうだな。え、もしかして雇う? ちょっと気難しいって聞くけど?」


 エドガーは難色を示すが、俺にとってはこの上ない戦力だ。


「だが、ケントニス商会が数度雇っていいと思うくらいの働きぶりが担保されてるんだろ」


 俺は思いつくままに言い訳を連ねるが、実際のところ担保される実力はケントニス商会じゃない。

 ゲームのレベル設定であり、この序盤よりも前の状況で、中盤活躍できるポテンシャルがあるキャラクターの参入に浮足立ちそうになってた。


 そんな思考でも、ちらりと勇者との出会いが変わってしまうとは考える。

 けど、ゲームでは最初から味方だし、そう大きくは変わらないだろうと、一人言い訳をしてみた。


隔日更新(十二月中)

次回:参加資格4

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