12話:狩猟大会2
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一話分飛ばして投稿していましたので、差し替えました。
狩猟大会は別の催しがなければ、毎年初夏に開催される。
過去開催されなかった時には、王族の冠婚葬祭だとか、他国からの国賓だとか別イベントがあってたそうだ。
今年問題なく開催された狩猟大会は、国王の弟であるクラレンツ公爵が主催してる。
二十代後半の、音に聞こえる有能な王族だ。
西の隣国で国情が怪しくなってるのに、この国は安定してるのって、国王の穏健な統治と王弟が軍事を握って厳格で壮健な運営してるお蔭とか聞いたことはあった。
「兵の立ち姿だけで、その指揮官の技量というものは知れます」
我が家の騎士団長のゾンケンが、会場を見回してそう言った。
狩猟大会に参加する学生の中で、家の騎士団を連れてきてる者は他にもいる。
ゾンケンが言うのはそれらの騎士じゃなく、俺が眺める本営となる場所に居並ぶ、この国の騎士団だった。
ゾンケンも今日は鎧をまとって騎士らしくしてる。
その姿では俺の視界に入らないように、一歩引いてくれてもいた。
主家の御曹司を重んじるようでいて、その実俺が怖がるからって言う理由なんだから、保護だ。
「揃ってくることなかったんじゃないか?」
俺は申し訳なさと、ありがたさを隠して騎士団を振り返ることなく応じる。
目の前には色とりどりのテントが、家紋の旗を翻らせて並んでた。
さらには家ごとに揃いの武具をあつらえた圧巻の騎士の群れ。
正直、参加資格を受けた学生とは言え、分不相応な場所だ。
「いやいや、坊ちゃんの晴れの舞台に留守番押しつけられた奴らも来たがってましたよ」
「そりゃどうも。俺が出ること自体、ほぼ記念参加くらいにしかならないんだけどな」
若手のメイベルトは笑うが、何せうち、官僚の家系なんだよ。
つまり文官で、軍事演習兼ねた狩猟大会に参加して青田買いされたがるのは、軍人や騎士だから、場違いでしかない。
変わり種は勇者のような戦闘向きの紋章持ちか。
そうやって意識を逸らすが、動く騎士団の威圧感に、俺は身の危険に伴う不快感のほうが勝って身震いしそうになる。
顔に出ないように気をつけつつ、ゾンケンを振り返る。
うん、見慣れた向こう傷のある騎士団長の顔が、武装も相まって凶悪に見えるな。
「気にしてた傭兵隊を見に行くか? 兵の立ち姿で計れる指揮官の技量について聞いてみたい」
「ふぅぬ、見定めてやりましょう」
「坊ちゃん、煽らんでください」
気炎を吐くゾンケンに、メイベルトが苦笑した。
どうやら未だに、俺が魔物討伐へ誘わなかったことに不満があるらしい。
ただ宥める前に相手から来た。
エドガーがロイエたち傭兵を率いて、ユリウスも一緒にやって来たんだ。
「おーい、ローレン。頼まれてた商品何処置く?」
「ローレン、何を買ったの? 馬車いっぱいに積んであるけど」
「あぁ、手に入るだけの回復薬だな」
俺の答えにユリウスはわからない顔をする。
ロイエたち傭兵も、俺の奇特な買い物と訝しむようだ。
ただ、俺のトラウマを知るエドガーや騎士たちは何も言わない。
俺も別に過去の、もう取り返せないことをグチグチ言うつもりはないんだ。
けど、騎士がいて戦う空気がある。
そんな状況で、俺もけっこう冷静を装うのに苦労してんだよ。
その一助に、回復アイテムとかあったら、少しは精神安定に役立つんだ。
何もできなかった、誰も助けられなかった前とは違うんだと。
「念のためにな。あって困るものでもないだろ」
「いや、困るな」
ロイエがはっきり言うと、ゾンケンがなんか剣呑な雰囲気を出す。
けどロイエは怯えず、気づかないかのように無視した。
しかもユリウスまでピリつく空気に気づかず頷く。
「うん、あんなにあっても持ち運びが大変じゃない?」
「あー、自分たちで魔物討伐やったからそっちの印象か。大丈夫、俺ら学生はおまけだから。ほぼ動かねぇよ」
エドガーはわかってて、場の空気を緩めるように笑った。
エドガーがつき合いのある伯爵家とわかってるから、ゾンケンも引いてくれた。
俺もエドガーに習って、ピリついたことなんて気づかないふりを装い、ユリウスに補足する。
「ただ騎士団の側にいるだけって言っても、未熟な学生だ。身を守るのも実力が足りないこともある。そうなると大怪我負う可能性が高いのは、俺たちだ」
「ポロ大会みたいに終わってから集まりがあるんだ。その時に見苦しい怪我とかなるべくないほうがいいさ」
エドガーは最初に指摘したロイエに向けて、こっちの都合だってことをつけ加えた。
ユリウスはそれに納得したけど、ロイエは考える様子だな。
それにしても量が多いのはわかってる。
ゲームでも初期のマップになる国だからか、そんなに高性能な回復薬手に入らなかったんだよ。
だから数揃えただけで、本当に裏はない。
ただの俺の精神安定剤なんでそんなに疑わないでほしい。
他の学生たちも、騎士団連れてるところは馬などもいるからスペースを確保し始める。
俺も、切り上げるように声をかけた。
「俺たちも準備に回ろう」
学生は班にわかれて行動する予定だ。
そして俺たちはそれぞれ別の班になっていた。
だから移動を促そうとしたら、明らかに貴族の使いとわかる者が現れる。
「ズィゲンシュタイン伯爵家のご令息とお見受けいたします。ヤディスゾーン大公閣下からご挨拶を許すとの仰せです」
「…………若輩の身に、余る光栄でございます」
俺はお断りを諦めた。
相手は実家の上役だ。
政治的な派閥の中で顔役してる大公さまの呼び出しなんて、受けたかないけどな。
別に武官とかじゃないけど、立派な騎士団もってることで有名な方だ。
そりゃ狩猟大会に参加するの想像できるし、父上も自家の騎士団連れて行けって言うわ。
「エドガー、ちょっと離れるから何か言われたよろしく」
「おう、他にも挨拶催促されて行ってる奴らいるから大丈夫だろ」
家を出ることが決定してるエドガーに、挨拶へ来いなんていうお声がけはない。
俺はゾンケン他騎士団でも見栄えのいい者を選んで、案内に従った。
呼びつけられる形は、こっちが下位だから順当で、わざわざ声をかけた上位者の恩情でもある。
それだけ参加資格を得た学生に対して、期待するところもあるんだろう。
「ローレンツさま、大丈夫ですかな?」
「心配しすぎだと言っただろう、ゾンケン」
眉を下げるゾンケンに俺は強がる。
そうじゃなくちゃ、目の前に迫る見知らぬ騎士の集団に足が止まりそうだ。
そんなことをしては笑われる。
俺の行動一つで関係な父上や義母上、弟妹、騎士団からその他従う者たちまでが笑われるんだ。
そんなことはさせられない。
だから、まずは舐められないように最低限、社交性はなくても真面目な学生のふりで動揺を見せちゃいけない。
「よく来たな、ズィゲンシュタインの」
「お忙しい中、ご挨拶のお時間をいただき感謝いたします」
すぐに通された先の天幕で、ゾンケンと同じくらいの年齢をしたヤディスゾーン大公と面会した。
整えられた髭が顎を覆い、太い首が鍛え上げた肉体を覗かせる。
ただかけられる声は穏やかで優しげだ。
大公という地位に相応しい鷹揚で、人を従えることに慣れた雰囲気がある。
「そう、ズィゲンシュタイン伯爵家の、なんだったか?」
名乗ることを許すと上から言うのではない、語りかけ。
それと同時に、我が家の問題について突きつけられた鋭い内容でもある。
「ローレンツでございます…………」
「ふむ」
俺の答えはお気に召さないようだ。
実は我が家は後継者問題がある。
何せ俺が前妻の息子なんだ。
だったら今の義母が生んだ弟が継いでもいいと思うんだが、年功序列なのか、俺が後継者だと思う奴は多い。
その上で、こうして顔役からはさっさと後継者指名されて挨拶しに来いと言う圧もある。
もう、なんでだよ。
前世みたいに職業の自由あってもいいだろ。
いや、教育に金かかるから、貴族の後継者教育も馬鹿にならないのはわかるけど。
俺みたいに社交に問題のある奴据えててもいいことないって。
「学生の内に、名を挙げるのも良かろう」
「は、本日は皆さま方の後塵を拝す所存にて」
これはあれか?
変に成績上位取って、こんなのに参加したせいか?
もしかして後継者指名されたいなら、後押ししてやるよとかいう含意?
いや、そんな余計な親切けっこうですんで。
できればこの無駄にがちゃつく騎士団の中から逃げ出したい。
正直、愛想笑いがきつい。
我が家の事情心配してわざわざ呼んでくれたのかもしれないけどさ。
大公がけっこう有情なのはわかったけど、できればそれは父上とやってくれ。
俺はもう、貴族家の跡継ぎとかなる気はないんだ。
まぁ、それとなく父上に言ったら、睨まれて聞かないふりされたんだけどさ。
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