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10話:参加資格5

 勉強会やりつつ魔物討伐を計画して、魚を最初に選んだのは自分で捌いて魔石取ることも想定したからだ。

 さすがにいきなり哺乳類っぽいのはな。

 あと、ほぼ素人の俺たちでも、魚なら陸に上げるだけで勝ち確だと思って。

 けど実際はけっこう跳ねるせいで、俺とエドガーは尾びれでビンタされ逃げられた。


 そして今日は作法の実績のための、茶会に参加している。


「ポロって言うのも初めて聞いたけど、馬術競技なんだ?」

「いや、球技だよ」


 会場に来て、居並ぶ馬に驚くユリウス。

 俺は脇に置いてあるスティックと球を指して訂正した。

 簡単に言えば、馬に乗って行う球技だ。


 貴族子弟らしく帽子とジャケットを着たエドガーが、洒落たタイの位置を調整しつつ言う。


「で、今日の茶会は、このポロ大会と同時に行われるもんだ」


 言うなればスポーツ大会の一環で、前世にもあったコンペだ。

 コンペでも軽食取りつつとか、終わって打ち上げとか色々。

 それと同じ感じで、こっちは順番待ちの選手や名のある観客が、交流会という名の茶会をする。


 そこに俺たちは、エドガーの実家が営むケントニス商会の名前で参加する。

 ユリウスは着慣れない礼服にまごつきながら、俺を見た。


「じゃ、なんでローレンは礼服着てないの?」

「そいつは選手での出場だからな。なかなか出てこない、有名選手よ?」

「いや、普通に何処にも所属してない趣味程度なんだが」


 なんか無理矢理エドガーに、選手枠で登録されたんだよ。

 一応家から馬連れて来てるし、面白がって騎士のメイベルトが馬の世話係としてついてきてる状態だ。


 俺は一度ユリウスとエドガーと別れて、選手だけが入れる囲いへと向かった。


「坊ちゃん、団長にも馬術だけは負けませんからね」

「ゾンケンになら、剣も行ける」

「それ、長剣限定でしょ。下手に力入れすぎると、武器のほう壊してしまうから」


 メイベルトと軽口を言い合いつつ、馬と共に一緒にやる選手の元へ。

 ポロは四人一組で、俺は控えとしての五人目。

 だから出る必要はないんだが、話題作りで一回出ろとエドガーに言われてる。


 メイベルトは思い出したように、選手のほうへ行く俺に囁いた。


「あと、この大会のことでも話に行くついでに、ちょっとご機嫌取ってくれませんか?」

「ゾンケンの? 何があったんだ?」

「いえ、坊ちゃんが魔物討伐するっていうのに、俺たち騎士団じゃなく傭兵頼ったって聞いて臍曲げまして」

「えぇ? 父上からも、許可取ったんだぞ? それにちゃんと狩猟大会参加できたなら、家の騎士団連れて行くのに」

「そこのところ、もう一度坊ちゃんからお願いします」


 これは、騎士の矜持とかそんななのか?

 いや、単に師匠面してたのに頼られなくて怒ってるだけっぽい気もするな。


 俺は簡単に正規の選手たちと位置取りや、作戦の打ち合わせをしつつ。

 世話になってる騎士団長のゾンケンへの対処を頭の隅で考える。

 だが、実際に試合となればそんなこと言ってもいられない。

 俺は十分にも満たない試合の一区切りに飛び入りのような形で参加した。


「すごいね、ローレン!」


 試合が終わって合流したユリウスは大興奮だった。


「馬片手で! しかも球も吸いこまれるみたいにゴールに!」

「な、言っただろ? ローレンはそこらの選手よりできるって」


 エドガーが胸張ってそんなことを言う。


「俺としては、一回出るだけだったはずが、ほぼ出っぱなしだったのがどうかと思うだが?」


 最初のゴール決めて終わりと思ったら、休憩挟んだ次の試合にも出ることに。

 馬のためにも細かく休憩入れてやる球技なんだが、休む度に選手に口説かれてまた出ててと繰り返すことになってしまった。


 結果、勝ちを攫ってエドガーとユリウスに合流。

 次の試合もって言われたけど、さすがに茶会での社交が主眼だからと逃げて来たんだ。


「一回休みたいところなんだが、着替えたほうがいいか?」

「いや、試合見てた人もいるし、そのままで行くぞ」


 休みたいって俺の希望は無視して、エドガーに腕を引かれた。


 今もポロの試合は広いコートで行われ続けてる。

 観客はコートを囲む芝生の斜面に思い思いに座って観戦。

 さらに高位の観客になると、屋根付きの観客席で優雅にお茶しながら見てる。

 もっと近くで見たい貴族は傘を使用人に持たせて、芝生に椅子置いて観戦してた。


「エドガーがローレン応援してたご夫人に声かけて、お茶の約束してるんだ」

「あぁ、先に当たりの柔らかい人を見繕ってくれてたのか。と、こういうことは言わないほうがいいな」


 思わず言って、俺はユリウスに真似するなと釘をさす。

 慌ててユリウスは頷いて、挨拶の手順を復唱し始めた。

 学院で貴族のマナーも学ぶから、その復習込みでの今回の社交だ。


 俺も得意じゃないから、ユリウスと一緒にエドガーについて行く形で、ポーチに用意された喫茶スペースに入る。

 この時点でユリウスは仲間だと思ってたんだが、ゲームの勇者のコミュ力を忘れてた。

 ゲームdえ各国回ることになった勇者は、行く先々で戦いに巻き込まれながらも、味方になってくれる協力者を得て戦い抜くんだ。

 つまり、俺よりも物慣れない風だったユリウスもまた、すぐに初めての場所で味方を作るコミュ力が搭載されてた。


「そう、馬から大きく身を乗り出した時のローレンの動き。落ちるかと思ってしまって」

「えぇ、わたくしもはしたなく声をあげてしまいましたの」


 親戚だという母親世代から姉世代、同年代のご夫人方と会話に花を咲かせるユリウス。

 既婚者狙ったのは、一応女関係で魔物嗾けられたユリウス慮ったエドガーの配慮か。


 あと俺を応援してた人を狙ったのは、誘いやすさと、社交ダメダメの俺のことも思ってだろう。


「それで、実際どのような技術でもってあのゴールをお決めになられたの?」

「いえ、あれは私の技術ではなく、馬の技量によります」


 ご夫人に振られて、自分でももっといい返しあるだろうとは思う。

 けどそこは、俺の受け答えのまずさを知ってるエドガーがすぐにフォローしてくれた。


「謙虚なんですが、今日は特に本来の選手を差し置いての活躍に気後れしているようでして。もちろん他の選手の活躍も素晴らしいものでしたでしょう?」

「まぁ、そうですの? あのチームの他の選手もなかなかの手綱さばきでしたものね」


 うん、エドガーは言うとおり喋るのが得意な上で、好きなんだよ。

 だからもう、好きに俺のことはネタにしてくれ。

 正直、ご夫人方と言っても上手く喋れる気がしねぇ。


 女性相手より、まだ同性のほうが話しやすいんだが、そこはエドガーの趣味だろうな。

 お年頃っていう、前世でも通った道だ。

 わかる、わかるが、今の俺にはそういう気は起きないんだよなぁ。

 前世思い出して客観視できたからって、生まれて育つ中で得てしまったトラウマは消えないんだよ。


「さーて、次のご夫人捜すぞー」

「さすがにご夫人にだけ偏るな」


 お茶を飲んで楽しく話し、そして別れて次の社交をもくろむ。

 だが俺は趣味に走るエドガーを止めた。


 ユリウスも下心なく、社交を楽しもうと意見を挙げる。


「ポロの選手してた人もいるらしいし、そういう人とも話してみたいな」

「えー、綺麗なお姉さんたちと話すの楽しいの俺だけ?」


 健全な青少年の主張をするエドガーに、ユリウスは素直に首を横に振った。


「いや、楽しかったよ。だからこそ、もっと色んな人の話を聞きたい。もちろん、ローレンも若い人と話したいならそれでいいけど」

「あ、こいつは気にしなくていいよ。見てわかっただろ。初見相手には口数少ないんだよ」


 俺のトラウマ知ってるエドガーは、さりげなく庇ってくれる。

 ユリウスも澄まし顔で乗り切った俺を見てたから、社交苦手なのはもう隠しようもない。


「ま、受け流し方とかなら、ローレン見習うのも一つの手だな」

「楽しくお話ししたいだけの相手ばかりじゃないこともある」


 エドガーに乗って、それらしく社交の身の振り方の一つってことにした。


 そして今度はユリウスの要望に応えて、元選手で過去の栄光を話したい紳士を捕まえる。

 これは俺としても興味深い技術的な話もあって、楽しむことができた。

 もちろん相手も社交に慣れた年長者だ。

 ポロ以外の話も適宜振って、エドガーよりも上手い話しぶりを見せつける。


「そう言えばエドガーくん。商会をやっているそうだが、聖女さまが帰国なさるという話は聞こえているかな?」

「えぇ、巡礼を終えて教皇猊下にご挨拶の上で、帰国の途に就かれたと」


 エドガーが答え、今年の夏の社交期は聖女の帰国に華やかになるだろうという話になる。


 ユリウスは興味を引かれたらしく、諸国を回る聖女の動向に耳を傾けた。

 聖女もまた紋章持ちとしてこの国では有名人だ。

 それとは別に、ゲームでは最初の仲間でありヒロインでもある。

 ゲーム開始には必須の人物。

 俺としても興味深く、今年の社交界に現われるという話に耳を傾けた。


隔日更新

次回:狩猟大会1

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