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交渉が終わった一同が応接室を出ると、奥で神妙な顔をして上司らしき白髪の男性と話していた職員が、こちらに気付いて慌てて駆け寄ってきた。
「ど、どうなりましたか」
「請けることにしたよ。人数は二人。登録よろしく」
「お願いします」
「ほ、本当ですか……」
内心では破談になることを期待していたのだろう。職員は若干肩を落としながら、アスキとタマキの冒険者証を受け取った。
「申請書はこちらに。とても良いお話し合いが出来ましたわ」
胸を張って依頼申請書類を差し出したフラーマに、はは、と乾いた愛想笑いを返し、その場でざっと内容を確認した職員は、
「え、報酬はポイントのみ?よろしいんですか?」
「もちろん、道中の食事や必要経費はこちらが負担しますわ。これからも個人的なお付き合いをさせて頂くということで、交渉が成立しましたの」
「はあ、そういうことですか。承りました」
慣れている職員はその意味をすぐに理解し、一同を再びカウンターの外に案内すると、
「登録に少々お時間を頂きますので、お待ちください」
と恭しく一礼して、戻って行った。
「ってことで、お姫様をアルマンディンまで送ることになったから。期間は明日から五日間」
命界に戻った二人は、報告書を書きながら早速基樹にことのあらましを説明していた。
「お前なあ……早速命界人規則三ヶ条破ってんじゃねえよ。政治には関わるなって言われてるだろうが」
「破ってないよ?護衛任務の対象がたまたまお姫様だっただけ」
いけしゃあしゃあと言ってのける少年に、溜め息を吐くしかなかった。
「す、すみません、私のために」
タマキが眉をハの字にしながら、縮こまっている。
「別に。どっちにしろアルマンディンを通らなきゃブレドには行けないんだし、どうにかするつもりだったんだ。あそこで偶然お姫様に会うなんて、タマキはやっぱり運が良いよ」
「運がいいのは、私じゃなくてアスキくんなんじゃ……?」
「ん?『あっくん』じゃねえんだな?」
すかさず突っ込みを入れた基樹に、アスキが飲もうとしていたコーヒーを噴き出しかけた。タマキが思わず口に手を当てる。アスキは、ニヤつく基樹を惜しげもなく睨みつけた。
「拾に言ったら、おれも『破壊神』の伝説喋るから」
今度は、基樹がコーヒーを咽る番だった。
「……分かった、お互い大人になろうぜ」
「そうだね……」
微妙な空気の流れる研究室で、タマキはおろおろと二人の顔を見るしかなかった。




