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冒険者研修の翌日、ライトは城に宛がわれた専用の仕事部屋で、研修に関する資料の整理と、三日間で溜まった本職に付随する事務作業に追われていた。
扉がノックされ返事をすると、失礼いたします、という声がして、しずしずとメイドが入ってくる。手には水差しを持っており、
「ああ、ありがとう。いつも気が利くね」
「恐縮でございます」
部屋の水差しの中身が少なくなっていたことに気付き、メイドに礼を言った。
彼が今の役職に就いてから五年間、ずっと身の回りの世話をしてくれているエリートメイドは、いつも通り速やかに立ち去るかと思えば、立ち止まり物言いたげにライトの顔を見た。
「どうしたんだい?」
「今朝、小耳に挟んだのですが、『英雄様』が帰って来られたというのは本当でございますか?」
それを聞いて、ライトはきょとんと、メイドの茶色い目を見た。そして、ふふ、と笑う。
「女性の噂は本当に早いね。……ああ、一瞬だけね。おかげでサブリナのレストランが大繁盛だ。久しぶりに兎の肉がたくさん入ったって」
「左様でございますか。わたくしも今一度、お目に掛かりとうございます」
窓から差し込む日差しを見ながら、メイドは静かに微笑んだ。
「君がそんな風に私情を挟んでくるなんて、ちょっとあいつに嫉妬しちゃうね」
「そんな、そのような理由では」
珍しく慌てふためき、耳を赤くするメイドを見てくっくっと笑いながら、
「……案外、すぐに会えるかもしれないよ」
「え?」
ライトは机の上の、目つきの悪い顔写真入りの成績表を眺めた。




