キジも鳴かずば(4)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致です。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
――ミコットが建物内部で危機に瀕している頃。
「……です」
「ご苦労。人間共に関しては、アイツ等に任せておけばよい。それよりも、問題は『あの婆』だ」
建物の屋上で、部下のマーフォーク達と話をするカリーナ。
彼女の他には、副官2人と報告に来た末端構成員1体だけ。周囲への警戒は当然として、不気味に光る魔法陣で自分達の姿を消す徹底ぶり。
当然ながら、場に漂う空気も張り詰めていた。
「婆が何を企んでいるのか、それを突き止める事が最優先。あの2人がこの場に居るのも、何か意味があるはず……ただ、こちらが直接動くのはリスクが高過ぎる」
「……カリーナ様。恐れながら、そこまで慎重に考えるのは如何なものかと」
「私も、そう思います。相手の動きをただ待つのではなく、こちらから動くべきかと……あの程度の人間なら、15分もあれば十分でしょうし」
手で顎を触り考え込むカリーナに対し、強硬論を唱える副官達。
その主張に、彼女は手で遮る素振りで制した。
「人間達だけなら、それこそアイツ等だけで対処が出来る。問題は『あの婆』だ……兵力ではこちらが負けている上に、評議会の現役メンバーなんだぞ? 真正面から戦えば、こちらが擦り潰されるだけ」
「ですが……このまま後手に回って、万が一の事があると取り返しが付かなくなります」
「……解っている。だからこそ、今日この場で必ず抹殺しなければならない。バカの戯れの巻き添えで、蝶の羽ばたきに巻き込まれる前に……」
「ですが、このまま待つだけではラチが開きません。動くなら、今です。カリーナ様……ご決断を!」
苦虫を噛み潰したような顔のカリーナに、尚も攻撃を主張する副官。
自分以外が強硬論を主張する空気の中、それでも折れるつもりはないようだ。
「待て……それより、ゾンビ共の動きはどうなっている?」
「町の外周部で20体ほど……4つのグループに分かれて東西南北に配置されていますが、現在のところ目立った動きはありません」
「幹部らしき連中は、そこに含まれているのか?」
「いえ、見当たりません。末端の兵隊のみで、部隊長クラスの姿は見当たらないとのこと。また、発生しているマナの量の通常値を下回っております」
「だろうな……我々が居ると解った上でおおっぴらに行動するほど、アイツ等もバカではないだろう。それで……兵隊どもの装備は?」
「間近で視認したわけではないので、断言は出来ません。ただ、偵察や簡単な破壊工作に暗殺が可能な範囲だと思われます」
報告に来ている部下に確認を取り、視線を宙に向けるカリーナ。
焦れる副官達の視線を無視し、しばし考え込む。
“時間的に考えて、人間共が全てのデータを回収するのは時間の問題のはず……
当初の予定では、それを待って急襲する予定だった。しかし、肝心の婆は姿を見せないまま。
迂闊に動いても、責任をこっちに擦り付けられるだけだからな。
それだけは、絶対に避けなければならない。
となると、あの2人を利用するのがベストではある。勘付かれないように注意を払いつつ、我々がバックアップ。
そして、混乱に乗じて……”
カリーナが計画を修正している時だった。
町の一角で、突然爆発が発生した。
「……報告を」
現場を一瞥するなり、カリーナが副官達に指示を出す。
そして、もどかしそうにする部下に対しては手で制して止めた。
「我々が展開していない区画で発生した為、詳細は不明。複数の部隊から、指示を仰ぐ内容の連絡が来ています」
「ゾンビ達に動きはありません」
数分も経たない内に情報は上がって来るものの、原因に結びつくものはゼロ。
しかし、それもすぐに修正される。
「現場と見られる区画に、例の2人が向かっていたとの報告あり」
「現場で複数の銃声……人間同士が交戦中の模様」
「ああ……銃声なら、ここでも聞こえている」
現場の方角を見詰めながら、ボソッと呟くカリーナ。
そして頭の中で素早く情報を整理すると、一気に指示を出し始める。
「各部隊から人員を抽出し、現場に向かわせろ。目的は2人のサポートと、ブツの回収。同時に、既に人間共の手に渡っている資料等を奪還しろ。住民は眠らせてあるのだから、容赦するな。こちらの姿を見た者は、確実に始末しろ」
「はっ、了解しました」
「我々と本隊は、このまま待機。婆達の動き次第では、正面からぶつかり合う事になる。装備等の確認を徹底させろ」
「「「了解!」」」
膠着した状態がいきなり崩れる中、カリーナの指示に従い動き始めるマーフォーク達。
彼女の顔には、先程までの迷いが消えていた。
――同時刻。
「何かあったのかしら? 外が騒がしいけど……いや、今はそんな事よりここから脱出しないと」
ミコットは人の気配が消えたのを確認し、建物の外への逃げようとしていた。
とはいえ、方法はシンプルそのもの。侵入した通気口を使い外に出るというもので、その後の具体的なプランはなし。
安全な場所の確保という目的は消え失せ、教会に戻るという本能に従っていた。
「あっ、あれ? 何で……えっ、ウソでしょ? てっ、手が滑って……上手く進めない」
出来るはずの動きが叶わず、困惑するミコット。
本人は無我夢中で気付いて無いが、当然だろう。なにしろ先程隠れる際に、体中が豚の脂でベタベタなのだから。
焦りは冷静な判断力を失わせ、視野も狭くなっていく。
「とにかく、早く外に出ないと……外にさえ出てしまえば!」
ミコットの頭の中は、屋外に逃げる事のみ。
だから、手に激痛が走った時も咄嗟に原因が解らなかった。
「……っ! こっ、こんな所で死ぬわけには! この夢も希望も無い生活から、1日も早く抜け出す……そして、せめて……せめて、あの人と再会するまでは! キズは時間が経てば治る。でも、死んだらそこで終わり! 私は……最後まで諦めない!」
自分に言い聞かせるように言葉を絞り出し、無心で前進。
火事場の馬鹿力か、それとも只の偶然だろうか。真偽の程は不明ながら、亀が這うようなスピードで動き始めた。
そして、数分後には完全に姿を消す事には成功。
しかし。
「……どうやら、図体の大きなネズミが入り込んでいたみたいだな?」
「靴の形状や大きさから推測して、女の子供でしょう。出血は、レンガの突起物かその辺の何か。周りが見えないまま、慌てて逃亡を図ったと思われます」
「だろうな……先程、我々の話を聞かれていた可能性もある。どうせ孤児が肉欲しさに侵入したのだろうが、見過ごすわけにはいかない」
「……解りました。出血の跡を辿れば、すぐに捕捉出来るはず。人を回しますので、我々は本題に専念しましょう」
残念ながら、ミコットの存在はあっさりと露呈。
血がベッタリと残る床に冷淡な視線を送りつつ、淡々と処理方法を決める不審者2人。
「とにかく、先程の爆発が気掛かりだ。住民はともかく、あれでは警察も動かざるを得ない。ヤツ等に邪魔をされる前に、ブツの回収を終わらせる必要がある」
「承知しております。ただ、こうなった時のケースも想定済み。日が昇る頃には撤収可能ですので、安心して下さい」
「そうはいっても、万が一失敗でもしてみろ……真っ先に切り捨てられるのは、他でもない我々なんだぞ? 切り札は、あくまでも最後まで温存するもの。また不確定要素が発生した時、どうやって修正するつもりだ?」
「それでも、大丈夫です。保険は何重にも掛けていますので、リーダーは胸を張って指示を出すだけ。何の問題もありません」
明確な温度差を見せる2人だが、片方が耳打ちをした事で一変。
驚いたような表情で目を見るのに対して、言った側は不敵に微笑むだけだった。
――その頃、靖之達はというと。
「……痛っ! 靖之……大丈夫?」
「あっ、ああ……どうにか」
周囲に煙が立ち込める中、靖之と舞は仰向けの状態で倒れていた。
それどころか、レンガや木片が至る所に散乱。屋根と共に天井が吹き飛んだのか、微かに夜空が視認出来た。
2人の他に、人の気配はゼロ。
ゆっくりと立ち上がったものの、言葉とは裏腹に足元はフラついている。
「まさか、あの状況で躊躇なくダイナマイトに火を点けるとは……咄嗟に、机を盾にしたからよかった。ちょっとでもタイミングが遅れていたら、今頃死んでただろうな」
「死角に1人隠れていたのを見逃したのが、私達にとって最大のミスでしょうね。もう少し、慎重に相手を観察するべきだったわ」
「俺達は、所詮素人だ。犯罪で生活しているヤツ等とは違うとはいえ、これじゃあ命がいくつあっても足りない」
「ええ、私もそう思うわ……次に繋げる教訓として、しっかり胸に刻まないと。ただ、こんな状態だからね。一応調べるけど、まともな情報は得られないでしょう」
室内をキョロキョロ見回すも、2人のテンションは低いまま。
どこに何があるかも解らない中、手探りで物色を開始。
“やっぱり、何かおかしい……
この建物に入る前は、複数の人間が言い争いをしていたはず。この現場が、その部屋なのは間違いないからな。
でも、それらしい人間はどこにも居なかった。
仲間割れをした形跡も無かったし、だったらあの時の相手はどこに消えた?
既に始末したとしても、死体を隠すようなスペースも無い。他の部屋に移動させるにしても、2階の部屋はここだけ。
1階に移動したのなら、それこそ俺達が入った時に気付いてるからな。
じゃあ、一体どこに消えたっていうんだ?”
靖之なりに考えてみたのはいいが、答えは出ないまま謎が深まるのみ。
違和感が妙な胸騒ぎに変わる頃、それを見つけたのは舞だった。
「……ちょっ、ちょっと靖之! これを見て」
「……えっ、どうした?」
意識外からの言葉に反応が遅れつつも、反射的に目線を向ける靖之。
確かに煙で視界は不鮮明であっても、それは確認出来た。
「しまった! 隠し通路だ……アイツ等は自爆したんじゃない。俺達の意表をついて、この部屋から脱出するのが目的だ」
「……は? えっ、ウソでしょ?」
露骨に悔しがる靖之と、意味が解らず怪訝そうな顔を見せる舞。
両者の間に変な空気が漂う中、説明を始めた。
「見てみろ……ついさっきまで、天井が吹き飛んだのは爆発が原因だと思っていた。でもそれなら、机でガードしたとしても無意味。あの距離なんだから、俺達は即死してるはず。それにも関わらず、ほぼ無キズだろ? 最初から、計算してたんだ。俺達ここに足止めして、尚且つ自分達が逃げる為に」
「いっ、いや……確かにそうなのかもしれないけど、あの距離よ? 自分達だけ助かる為に計算したにしては、無理があるんじゃない?」
「ああ、普通に爆破したのではまず助からないと思う。でも、これを見てみろ。壁に天井と床も全てボロボロなのに、この区画だけノーダメージ。その証拠に……やっぱりそうだ。分厚い鉄でガードされてる上に、ご丁寧に補強と防壁まで用意されている」
爆心地の床を踏んで、持論が正しいと言わんばかりに頷く靖之。
それでも状況が呑み込めずに固まる舞に、更に言葉を続ける。
「探せば、近くに逃走用の何かが見つかるんじゃないか? ほらっ……ここだ」
「そんなのウソでしょ……っ!」
「爆発の混乱に乗じて、このハシゴを使って1階に降りたんだろう。それに対して俺達は咄嗟の判断が遅れ、貴重な時間を無駄にした。爆発は、元々の階段を潰す意味もあったんだろう。直接始末出来れば儲けものぐらいの感覚でも、アイツ等にとっては十分」
「……まだ信じられないけど、確かにこれを見ると納得せざるを得ないわね」
扉の下に続く鉄製のハシゴに視線を向け、疲れ切った表情を隠せない2人。
自然と無口になるも、少しして靖之が口を開いた。
「暗かったとはいえ、侵入時にハシゴを見過ごしたんだ。おそらく警察が踏み込んだ時を想定したんだろうが、なるほど……危険と金を掛けてまで、こんな仕掛けをわざわざ用意するぐらいだ。相手は、どう考えても只の武装強盗の類ではない」
「そうね。靖之はどっちだと思う?」
「まだ解らん。ただ……この建物で何をしていたかも含めて、このまま放置するわけにはいかない」
「……そうと決まれば、さっさと後を追いましょう。どこに逃げたか見当も付かないとはいえ、ここに居ても始まらないし」
互いに口にこそ出さずとも、イメージは共有しているのだろう。
2人もハシゴを使って脱出を試みるのだが、相手も指を咥えて放置するはずも無く。
「……っ! 思ったより早いな。このまま下に降りても、狙い撃ちにされるだけだ。だったら! よしっ、まだ包囲はされてない! 俺が援護するから、舞は先に出てくれ」
「了解! 下で私が足止めするから、細かい指示は任せるわ」
1階からの銃撃で怯んだが、それも僅かな時間だけ。
窓際に移動して安全を確認すると、すかさず行動を開始した。
――そして、ミコットは何をしているのかというと。
「……はぁ……はぁ……はぁ……こっ、これで出血は止まったはず。えーっと、周りに人も居ないし後は教会に戻るだけ。大丈夫……慌てず焦らず、ただ家に帰るだけ。それだけなんだから」
服の端を破り、出血した所の応急処置を完了。
建物の外の茂みに身を隠してはいるが、ただそれだけ。少し離れた場所では大勢の人間の気配があり、彼等の目的は考えるまでもない。
本人もそれは認識しているらしく、ジッと息を殺して待機。
マシになった頃を見計らい、姿を現した。
「方角は、こっちで間違いない。とにかく大事なのは、誰にも見つからない事。それさえ守っていれば……」
緊張で心臓がバクバクなるのを我慢し、1歩1歩警戒しながら進む。
しかし何のアクションもなかったのは、僅かな時間だけ。
「おやおや、お嬢さん……こんな時間に1人で……しかも、そんなキズだらけの状態で何をしているのかな?」
背後から女性の声が聞こえ、ビクッとして反射的に振り向くミコット。
彼女の視線の先には、空中を羽ばたきながら微笑む化け物がいた。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。
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