謎の研究ラボ(前編)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
――靖之達が医師に呼ばれた直後。
「「……」」
医師に先導されるまま、処置室が並んだ場所を通過する靖之と舞。
しかし、視界に入るのは救急で運ばれたとみられる重症患者のみ。酸素マスク・全身チューブは当たり前で、意識のある人は皆無。
重苦しい空気が漂う中、2人は無言で先に進む事しか出来なかった。
“あれから、どれだけ経っただろうか……
人は、いつか死ぬ。頭では理解してるし、だからこそ日頃から感謝を伝えるべき。ただ、残された人間に残るのは悲しみと罪悪感だけ。
ここに居る人のうち、助かるのはどのぐらいだろうか?
いや……
申し訳ないが、今は会った事がない他人よりも響の安否が心配だ。骨折とはいえ、場所によっては日常生活にも支障をきたしかねない。
先生の話では、そこまで重傷ではないはずなんだけどな。
とにかく、早く会って状態を確認したい”
靖之の気持ちとは裏腹に、医師は黙って歩みを続けるのみ。
時間にして数分なのだが、2人にとっては長く感じたのは事実だろう。
「本人のたっての希望なので面会を許可しますが、それでも時間は5分のみ。彼はこの後手術を控えていますので、負担を掛けないようにお願いします」
「解りました……じゃあ、入ろうか舞?」
「ええ、そうね……ありがとうございます」
個室の1つに案内された2人は、医師に頭を下げて礼を口にした。
そして、靖之がノックして響との対面を果たしたのである。
「……おお、2人共忙しいのに悪いな。どうしても話しておきたい事があって、先生に頼んで呼んだんだ」
「水臭い事言うなよ。友達なんだから、気を遣う必要なんてないだろ?」
「そうそう、高校からの付き合いだからね」
ベッドの上で寝たまま手を振る響に、フランクに声を掛ける2人。
もちろん、傍に居る彼の母親に会釈をしながらではあるが。
「……ごめん。ちょっと大事な話だから、3人だけにして欲しい」
「そう……解ったわ。でもこの後手術なんだから、無理はしちゃダメよ?」
「解ってる」
「うん。じゃあ、私達は外で待ってるから……」
響は母親と言葉を交わし、人払いをする事に成功。
2人は擦れ違う時に会釈をし、彼女が外に出たのを確認して彼の傍に移動した。
「何があったんだ、響? お前が事故を起こしたなんて、信じられないんだが……それも、自損だろ?」
「まぁな……時間が時間だったから、判断力は落ちてたんだろうけどな」
「それで、折れたのは左足だけか?」
「ああ、そうだな。手術でプレートを入れるみたいだけど、難易度は高くないみたいだ。入院自体も、そこまで長くないみたいだし。肋骨は折れたのが下2本だし、内臓には掠っても無いから問題無い。そもそも、ギブスも付けられんからな」
まずは靖之がケガの具合を確認するも、大手術でもないようだ。
大ケガではないので安堵する2人に対し、真剣な表情になる響。
「なぁ……こんな事を話しても信じて貰えないかもしれんが、聞いてくれるか?」
ガチトーンの声もさる事ながら、2人が気になったのはそのフレーズである。
しかも、事実を隠して『アレ』を運ぶ事を頼んだばかり。無関係の人間を巻き込んだ可能性が高まり、2人としても緊張感が高まった。
いや、恐れていた事が現実になり罪悪感を覚えているのだろう。
押し黙ってしまう両者だが、どうやら想像とは違ったらしい。
「事故自体は、おそらく何か踏んでタイヤがパンクしたんだと思う……その感覚はあったし、立て直せなかったのは俺の判断ミス。ただ……こうなってしまうと、少なくとも数日間は家を空ける事になるだろう?」
「ああ……そうだな。ペットの世話なら、心配しなくてもいい。爬虫類の事も基本的な知識は持ってるし、響の入院期間中なら俺が面倒を見よう。もちろん、家族にはちゃんと響の口から説明して貰うけど」
「ああ、そう言ってくれると俺としても助かる。でもな……だからこそ、靖之に言っておかないといけない事があるんだ」
「んっ? どうした、そんなに改まって……」
言い難そうな響とは対照的に、困惑する靖之。
横で黙って会話を聞いている舞も首を捻る中、意を決したように口を開いた。
「実は……」
――同時刻。
「彼には悪いが、恨むなら事実を隠して『ブツ』を運ばした2人を恨んでくれ」
例のガイコツの化け物は、人間の姿をして響の家に来ていた。
とはいえ、誰かに危害を加えるのが目的ではない。
「後は、これを回収するのみ。幸い彼のケガも軽いみたいだし、問題は全て解決。面倒臭いが、これを人の目に触れさせるわけにはいかない。特に、あの2人には尚更な」
家の横にある倉庫前に置かれた木箱を発見するや、片手で持ち上げる化け物。
靖之と舞の2人掛かりで引きずるのが精一杯だったが、そこは種族の違いだろう。それどころか、何かの力を使って空中に浮遊。
自身も同様に浮き上がると、どこかに飛び去ってしまった。
“あっちの世界で起こった歪が、この世界でも出始めている。
確か、こういうのを『バタフライエフェクト』って言うんだったか?
気掛かりなのは、例の2人が活動し始めて影響が顕著になった点だ。評議会の連中はまともに対応しようとしないし、どう思ってるんだろうな。
全ての元凶は、あのバカ共なんだが……
いや、愚痴を言ってても始まらない。
私1人で対応するには限度があるし、人間に『アイツ等』を売るリスクもある。1度公になると、ネットを介して全世界に広まってしまうからな。
中途半端にテクノロジーが発達した世界は、これがあるから嫌いなんだ。
とにかく、今出来るのは人手を増やして監視を強化する事。
いつまで続くか解らん以上、他に打つ手がないからな……本当、誰かまともに話を聞くヤツは居ないのかね?
居ないだろうな……”
憂鬱な気分のまま空を飛んでいたが、突然急停止。
眼下の山が気になるのか、静かに降下し始めた。
「この横穴……解り難いけど、自然に出来たものには見えんな。しかも、人間がやったとも思えんし……気になるし、ちょっと調べてみるか」
崖の斜面に空いた穴を、念入りに観察する化け物。
傍目から見れば、どこにでもあるような小さな横穴である。ちょっと進めば奥まで確認出来そうだが、何か感じ取るものがあったのだろうか。
周囲をキョロキョロ見回し誰も居ないのを確認し、地面に『ブツ』を置いた。
そして手をかざして薄緑色に光るのを確認すると、中に入って行った。
“なるほど……
上手く隠しているが、私の目は誤魔化せない。トラップを仕掛けて無い所を見ると、警戒しているのは人間ぐらいか。
まぁ、無理もないか。
どうみても、これを作ったのは我々の世界の住人だからな。だからこそ、見逃すわけにはいかない。
こっちの世界に干渉しないのは、評議会が決めた事。
それを破るという事は、何かあると見て間違いない。下手をすると、我々の責任問題にもなりかねんからな。
まずは、目的を突き止める事が先決だ”
細心の注意を払いつつ、奥に進んで行く化け物。
中は日光が届かず薄暗いが、そこは自身の視力でカバー。一通り目で確認を済ませると、壁のとある部分に目星を付けたらしい。
ただの剥き出しの土に見えるが、強く押すと地面が鳴動。
一番奥の部分の土が崩れると、青白く光る模様が浮かぶ金属板が露わになった。
「この文字……呪文からして、もしかしてアイツ等の仕業か?」
化け物は首を横に振りつつ、板というか壁に手を触れた。
その瞬間何かに弾かれるが、想定の範囲内なのだろう。
「さすがに、私の存在に気付かれるわけにもいかんからな。これも、ここで何が行われているか調べる為……悪く思うなよ?」
そう言いながら何か呟くと、光が消滅。
次の瞬間には、壁を擦り抜け中に侵入した。
“もう、疑いようもないな……
水路を通路として使用するのは、いざという時に水攻めする為。同時に、アイツ等が生み出すキメラ共の土俵でもある。
そして、この奥で研究をしていると見てまず間違いない。
ただ、この世界で何をするつもりだ?
研究をするなら、向こうで十分なはず。わざわざこんな手間を掛け、資材も無い場所で隠れて研究する理由が解らん。
いや、待てよ……
ここ数年、評議会のパワーバランスが崩れているのも事実。全面戦争にこそなってないが、火種はくすぶり続けている。
誰かが、アイツ等を利用しているんじゃないか?
だとするなら、今は証拠を集める事に集中するべきだな”
頭の中でアレコレ考えつつ、水路を進む化け物。
だいたい、10分程経った頃だろうか。
「ちぃ……ヒュドラか。マナの関係か不完全な個体だが、戦力としては申し分ない。あのバカ共、この世界への影響も考えてないのか?」
3つ首のヘビの化け物が現れ自身を透明化するも、焦る様子から見て強敵なのだろう。
第1の障害はクリアしたのはいいが、その顔には疲労が滲み出ていた。
「そういえば、この国にはヒュドラの伝説が残っていたな。名前は、確かヤマタノオロチだったか? 神の1人によって討伐されたみたいだが、もしかしてその時代から……いや、さすがに考え過ぎか」
疑心暗鬼になったような表情になるも、すぐに頭を振って否定。
先に進むべく、慎重に前進を始めた。
「クソッ……やっぱりというか、当然というべきか。迷路のように水路を張っていて、どれが正解か解らん。どうせ外れはキメラの巣だろうし、トラップもチラホラ見えてるからな」
移動スピードが露骨に鈍化し、さすがの化け物も苛立っているようだ。
同時に立ち止まるのも避けたいようで、正攻法での突破は断念。
「マナが集まっているのは、この先で間違いない……周囲に研究員のエルフも居ないし、今がチャンスだな」
周囲に異常が無いのを確認すると、本来の姿であるガイコツに変身。
マナを両手に凝縮すると、目の前に魔方陣を形成した。
「はぁ……はぁ……はぁ……さっ、さすがに……この大きさはキツいが、背に腹は変えられん。さっさと見る物を見て、脱出するとしよう」
かなりの力を使ったようだが、休んでいるヒマがないのも事実だろう。
フラ付く足取りながら、魔方陣の中に姿を消した。
――その頃、靖之達はというと。
「なぁ……さっきの自損事故のバイクだけど、見たか?」
「ああ……あのカブだろ? 前輪のタイヤが、フレーム諸共削り消えてたな」
面会を済ませた2人が帰ろうと通路を歩いていたら、警官らしき2人組と遭遇した。
表面上は無関心を装っていたが、角を曲がって死角に入った所でストップ。
「ただの自損事故で間違い無いとは思うが、だったらアレは何なんだ?」
「さぁな……防犯カメラの映像でも異常が無かったんだし、それでいいじゃねぇか。運転してたガキも、生きてるわけだし」
「現場を見たけど、凄まじい反射神経だ。普通ならガードレールに突っ込んで、そのまま民家にダイブして即死。損害賠償諸々で、悲惨な事になってただろうし」
「咄嗟に、わざと転倒したんだろう……狙ってやったんだったら、曲芸に近い。まさに、九死に一生ってやつだ」
話の内容からして、響の事故を指しているのは間違いないだろう。
ただ靖之達からしてみると、その前に話していた内容が気になるようだ。
「ともかくだ……原因が解らない以上、タイヤの件は見なかった事にするべきだろう。それは俺達の仕事じゃないし、そんな暇も無いんだからな」
「それもそうだな。現場も片付いたみたいだし、俺達もそろそろ戻るか」
あっさりと話を終わらすと、興味が無いと言わんばかりに立ち去る警官達。
一方の靖之と舞は、黙って考え込んでいた。
“さっき響から聞いた話といい、アイツ等の誰かが犯人と見て間違いない……
クソッたれ!
こんな事になるんだったら、気軽に頼むんじゃなかった。どう考えても、俺達が原因じゃねぇか。
ともかく、トカゲの件もある。
犯人は当然探すとして、気になるのは『アレ』だ。十中八九回収されているだろうが、このまま引き下がるわけにもいかない。
無理は、百も承知。
それでも、手掛かりを見つけなければ……”
靖之なりに、次の行動方針は決まった。
後は、それを舞に伝えるだけ。
「すぐに、響の家に向かおう。まずは……」
――再び、ガイコツの化け物はというと。
「ビンゴだな……評議会への報告をするにも、まずは証拠だ。それも、言い逃れ出来ない物でなければならない」
先程までの水路とは打って変わり、ラボらしきエリアに到着していた。
壁一面が機械と薬品の棚で埋まり、解剖する設備まで完備。薄緑色の液体に浸かったグロテスクなクリーチャーは、彼らの研究対象だろう。
この時点でアウトだと思うが、慎重を期すようだ。
“パッと見る限り、団長は不在か……
ただ、今はそんな事はどうでもいい。彼女の思惑がどうであれ、裏で糸を引いているヤツが問題だ。
そこを明らかにしない限り、解決には程遠い。
カギになるのは、研究記録。
このエリアのどこかにあるはずだから、まずはそれを奪取する。もちろん、こっちの姿を見られたらこれまでの苦労が水の泡。
とにかく、慎重に動かねば……”
瞬時に考えをまとめると、後は行動あるのみ。
どこかにあるターゲットを求めて、静かに移動を開始した。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。
次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。
細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。




